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「男は下働き、嬢ちゃんは俺達と楽しい遊びをするとしようや………」
「くっ……!」
「………」
セラは己の腕には自信がある方だ。しかしそれは学生として優秀であるだけで、それが俗世全体に通用するとは限らない。おまけに相手はこの人数だ。身を翻して逃げるにしても隠れる場所は無い。
(どうすればッ────)
「おらよッ!!」
「カ、カイル君!?」
迫る身の危機に思考を巡らせていると、横で怯えた様子を見せていたカイルが急に腕を振り上げ、何かを投擲した。
数は三つ。慣れているのか、上手いこと空中で三方向に分かれ、男達の前に落とす。
「(おい……!まだ動くなよ!)」
「(キャッ……な、なに!?)」
唖然としたままカイルの行動に驚いていたセラ。身動き取れずに固まっていると、驚かせた張本人であるカイルが今度は手を握って来た。小声で指示を受ける。
「爆弾かッ……!?」
「違ぇ!これはっ……!」
慌てる男達。目の前に落ちたものが火花を発している事に気付き、一斉に後退する。
その様子を見てカイルは眼鏡を中指で押し上げ、にやりと笑う。
「───発煙筒だよ馬鹿野郎!」
「キャッ……!?」
勢い良く発された白い煙が男達の目の前を覆い隠す。その瞬間、カイルはセラの手を引いて、東側へと駆け出した。
「逃げるぞ!身体強化は良いな!?速さの違いは気にするな!」
「え、ええ!!」
元来の力、魔力の量、及び属性の違いによって生まれる身体強化の効果と特性。それが二人の足の速さに差を生んでしまう。
しかし身の危険が迫っている。その差もまた男女で異なる。ここでセラが気遣ってカイルに足並みを揃えるのは間違っている。
「(林に駆け込め!姿を紛らす!)」
「(分かったわ!)」
発煙筒の煙が消えるまでに大きく迂回し、あえて男達の方の林に飛び込む。回避率はそれによって大きく上がるだろう。
(もう少しでッ……!)
「ぐあッ……!?」
「えっ!?カイル君!?」
あと少しで林に飛び込めるところだった。
変わりにセラの耳に飛び込んで来たのは僅か後ろを走っていたカイルの呻き声だ。セラは慌てて足を止め、カイルの方へと振り返る。
「チィッ……捕縛魔法かよッ……!」
「カイル君!」
セラの後ろでは腕と胴体、そして両足を拘束されたカイルが地面に倒れていた。顔から倒れたのか、頬を擦り剥いている。
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