キャンベル解放作戦

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「まあ……一先ず今日は休まれて下さい。医療機関の寝床が飽和状態にありますが、皮肉にも健常者の寝床は余っている状態です。」 「ああ、恩に着る。」 「いえいえ……」 この短時間だけでもかなりの事を頭に詰め込んだ。流石に整理の時間が必要かもしれない。魔族の脅威に味方であるはずの人間が罪を為し、怒りを隠せなくなっている者もいるのだ。頭を冷やす時間が要る。 その後はそのまま宿舎に案内され、俺達は休息を取ることにした。幸いにもキャンベルに流れる川は“こちら側”が上流であるようで、水には困っていないようだった。 「いやあ……久し振りにお湯を浴びれるぜ………」 「ああ……水で拭くだけでは物足りなかったか。」 「冬真っ盛りだぞ?寒いっつうの。」 同感だ。自分ではあまり分からないものだが、自分が不快な臭いを発していると思うと身の毛がよだつ。おまけにこの三日間は汗もかいていた。お湯無しでは明日を過ごせないだろう。 ロッソは既に布で藁を包んだ簡易式のベッドで鼾(いびき)をかいている。最初は煩くて眠れなかったが、もうこの雑音も聞き慣れたものだ。 「浄化装置も設置してあると言っていたな。この人数だ、早い内に上着から取り掛かった方が良いだろう。」 計四人、それに対して魔力式浄化装置は一つ。全ての衣類を清潔に戻すには時間がかかるのだ。 萌葱色のジャケットを脱ぎながら脱衣所に向かう。どこの世界でも洗浄関係は浴室の近くにあるのが定石らしいな。 「あ、おい。今はジェムが………」 「? ジェムが入っているが……どうかしたのか?」 「あっ、ちょ………知~らね。」 脱衣所の戸を開けてからジョットに訊き返すと、何かを諦めるようにして部屋の外に出て行った。いったい何だったのだろう。 ジェムならシャワー室で体を洗い流している最中だ。もしかしてあれか、たとえ男同士でも体を見られるのが気恥ずかしいといった現代的な問題か。 前世、俺も学生時代の頃は修学旅行の時などに少し気恥ずかしさを出していたものだ。見せ合いをしていた連中がこれだから思春期は辞められねぇと豪語していたのを思い出す。 「まあ、大丈夫だろう。」 世間は緊急事態だ。先の道中では山道手前で皆で極寒の中、水浴びをした。今さらそのような事を考える余地はあるまい。 そういえば……水浴びの時ジェムの姿が見えなかったような……。
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