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様々な過去(前世込み)を思い起こしながら、上着を乗せた浄化装置に魔力を流し、起動する。どうせなら洗濯機のように一度に多くの服を洗浄出来れば良いのだが、その点、乾かす手間を省ける分には便利だ。
「あ~気持ち良かった……」
「そうか。」
「えっ。」
作業に集中する俺の背中から温かな濃い湯気が伝わって来た。それだけで久々の湯浴びがどれだけ気持ち良かったものなのかがよく分かる。これは期待出来そうだ。
浄化装置起動から一分。上着一着がたったこれだけの時間で清潔になった。切りの良いタイミングだ。ジョットは外出、ロッソは爆睡しているから次は俺が湯を頂くとしよう。
「さて………?」
「………」
振り返ると、此方を凝視しながら固まっているジェムがいた。早く体を拭いて服でも着れば良いものを、湯冷めをするのではないか。
そうか、きっとこの浄化装置を見るのが始めてだから不思議に思っているのだろう。後で使い方を教えてやるとしよう。
「その前に湯浴びか。」
いったん清潔になった上着を置きに行こうと部屋の中に戻ろうとする。そういえば、何やら今衝撃的な光景を見てしまったような気が────
「……ぅ………」
「………!?」
「うわああああああああああっ!!!」
もう一度振り返った直後、俺の目の前にはジェムの拳が迫っていた。
久々に正座をした。
この世界の人間は一般的に椅子に座るから脚が正座に慣れていない。この体勢になって早くも微々たる痺れが発生している。俺、雷属性なのに。
「…………普通さ、全部避ける?」
「魔力が乗ってたから……つい、な。」
「ついなじゃないよ!」
反射で身体強化を扱えるようになったとは随分上達したものだ。感心に値する。間違いなくジェムは才能があるだろう。
「しかしあれは間違い無く痛い。」
「痛くしてんだよもおおおおっ!!!」
新月の夜、俺は己の反射神経の向上振りを喜ぶ。
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