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翌日、不謹慎なほど清々しい朝。
昨日の俺達はキャンベルに到着後、まさか直ぐに休めるとは思っていなかった。その上清潔を取り戻す事も出来たのだ、晴れ晴れとした顔ぶれが少なくないのは仕方ないと言えるだろう。
起床後、俺達は市民会館の広い一室に集められた。昨夜の話だけではまだまだ話し足りないという事で、捕捉すべき事項があるようだ。
「───待たせたのぅ。」
ムーラン殿が部屋に入って来た。その手には多くの資料が抱えられている。見たところキャンベル市内に関するものが多そうだ。
そして、そんなムーラン殿の後ろをエコー殿と何処かで見知った顔の貴族風の男性の二人が追従して来た。
「あれは………」
「知ってる奴か……?」
「ああ……少しな。」
ジョットの問いに小声で答える。
スローラルに上陸し、初めてお互いに認識のある人と再会した。もっとも、今の俺の風貌を見てもエル・ソルトだと判断し難いだろうが。
「そちらの方は……?」
「此方は当キャンベルの従国領主であられる、アレクトル・キャンベル卿です。支援に駆け付けてくれた皆さんにご挨拶を、と。」
ライアン殿の問いに対し、エコー殿が横に退いて紹介を始める。
綺麗に纏められた白髪と顔に合った立派なカイゼル髭はキャンベル卿の貴族たらしめる立場を強調し、ストライプ生地の紺色の上着が気品を際立たせている。
荘厳な御人だ。流石、長い歴史を経てこの情報都市の名の元になっただけある。
「アレクトル・キャンベルだ。遠路はるばる赴いてもらったというのに、この様な不甲斐無い結果となってしまって申し訳ない。」
「とんでもございませぬ!全ては同じ人族の危機につけ込んだ愚かな輩の仕業……キャンベル様が頭を下げる必要などありませぬ。」
「これはけじめの意味も込めている。そして、貴殿らに正式に依頼をするため、頭を下げに参った。」
ライアン殿が代表となって相手をするが、キャンベル卿の纏う領主たるオーラに圧倒されているようだ。どうする事も出来ない両手を遊ばせてしまっている。
「まあまあ……先ずはお互い座ってはなそうではないか。」
ムーラン殿に促され、互いに部屋のソファーに腰掛ける。俺達は大人数なため、代表してライアン殿とジョットが座った。貴族とも思われていない若造の俺が名乗りを挙げるのも可笑しな話だろう。
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