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三人は迅速に支度を整え外へ向かう。
いの一番に外界に飛び出したロッソは屋根付きの昇降口を通りすがって慌てて足を後ろに戻した。
後ろを追随していたジョットとジェムが二人揃ってその背中にぶつかる。
「わたッ!?んだよお前!!」
「上見ろ上!」
「ああ?うえ?」
ジョットは怪訝な顔で屋根の先から覗くように空を見上げた。
そこで見えたのは、街全体にゆっくりと降り注いで来る黒い何か。
「やっばい、やばいな。」
「うわぁッ!?何あれぇッ!?」
人間、追い詰められて本性を現す前に一度だけ異常に冷静になるタイミングがある。死の危険はまだ先になるけれど、ほぼ逃げようが無いと分かった時だ。
「おい!ジョットどうするんだよ!?」
「どうしようかねぇ。」
「ぉおっ!?嘘だろ何その真顔!?」
慌てるロッソに対し、惚けた老人のような顔で立ち尽くすジョット。既にリーダーとして判断を下すにはこの状況はあまりにも人知を超えている。
そんな彼らを嘲笑うかのように、黒い何かは重力に従って空から降り注いで来ている。
「うわあああああああッ…………ん?」
「こんな所で死ぬのか畜生………どうしたジェム?」
「いや、なんか………」
空を見上げて怯えていたジェムは降って来るものの異常性に気付く。距離的に地面に到達するまでの時間が長いのだ。
ボウガンで鍛えた視力を駆使して目を細めていると、その黒い何かは右往左往するように宙を舞いながら此方に向かって来ていることに気付いた。
「ねえロッソ。」
「うん?」
「あれ、たぶん危ない物じゃないよ?」
「は?」
生まれた希望に疑問の声を上げつつ喜ぶロッソ。怯えを止めてジェムと同じ様に空を見上げ、目を細める。
「………紙切れか?」
「うん……そうだね。」
“蠢く黒”が落とす無数の黒きもの───黒い紙切れは空間を切り裂いて地面に降り注ぐ。正体を掴めど、その量にジェムとロッソも慌ててしまい掴み損ねた。
「────わぶッ!?」
「お、ナイスキャッチ。」
ジョットは風に煽られたそれが顔面に張り付いた事で我を取り戻した。
顔を顰めながらも剥がしたジョットは何処か不機嫌そうにそれを翻した。
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