染み行く混迷

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「こいつぁ……黒い紙に白い文字か。」 「えへへ………読めない。」 「お前は……勉強しとけっつったろ。」 ジョットは困った笑顔で求めるように見上げて来るジェムの額を親指で押し込む。彼女は十六年間読み書きをして来なかったのだ。 「で、何々っと………」 「……っ………こいつは。」 「あ、あれ?空が………」 「あ?」 ジョット達が黒紙に目を落としていると、ジェムが空を見ながら異変を読み取った。読むのを中断した二人はジェムと同様に空を見上げる。 「西へ、向かって行くぞ………」 「大陸の内側じゃねぇか………」 国内における《キャンベル》の位置はエドワードによる地図で把握している。此処は王都の北側、つまり大陸では東北東にあたる場所だ。 西には、スローラルの他の市町村しかない。 呆然と空を見上げるジェムとロッソを尻目に、ジョットは再び黒紙に目を落とした。 ( “『我々は現実を知る。我々は見ている。粛正は終わらない、欺瞞がこの世に蔓延る限り。』” ……か。) 胡乱げに見るジョットにはまるでこの文が正義に準じた文言のように思えた。 “蠢く黒”が去って行く光景に何処からか聞こえて来る悲鳴も止み始めた。危険が無かった事に安堵したのだろう。 「………どうする?」 「ギルドに向かうぞ。エドワードもそこに居る可能性が高い。」 「了解。」 神妙に捉えざるを得ない内容に、字を読めないジェムも二人の顔を見て察したようだ。 走り出すジョットの後ろをいつもの様に追い掛けた。
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