無情の選択

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市民会館議事堂。 全員。全員が一堂に会した。 行政、ギルド、全戸主。そして希望観覧者。 『現在も各市町村は魔物と交戦し、被害を最小限に食い止めるべく────』 《キャンベル》市代表従国領主、アレクトル・キャンベル卿本人の口から痛ましい内容の話が淡々と告げられる。 聞き手は大人しく耳を傾ける事しか出来ない。塞ぐわけにはいかない。此処にいる全ての者は何らかの代表として参加しているのだから。 “蠢く黒”が通りすがって混乱の収拾と黒紙の回収が急がれた。 ギルドと衛兵が動いて数時間後の事だ。市内全ての通信機が鳴り響いた。 内容は“第二波の襲来”。王国にとってはの話だ。第一波は主要都市のみが襲われた。今度の市町村の人々にとっては、他人事であった恐怖が自らに降り注いで来たに違いない。 (アル……シェリア………) 掌を固く握らざるを得ない。そうでもしなければ名を口に出してしまいそうだ。直ぐに助けに行けるわけでもないというのに。 《ライゼンバーグ》もまた襲われたのだ。広さ故に振り分けられた魔物の量も多く、無力な市民達が犠牲になったという。 父や仲間の活躍を知らされた。しかし、そんな事で喜べるはずがなかった。 「おい、エドワード。」 「ん……ああ。」 ほぼ一方的な説明でギルド・市民参加の行政議会は終えられた、らしい。辺りを見回すと、集まっていた人々は散り散りに動き始めていた。 俺も議事堂から出ようと三人の元へと向かう。 「お待ちくだされ。」 「………キャンベル卿。」 背中から呼び掛けられる声。振り向くと、逃がさないと言いたげなキャンベル卿が近くに居た。その距離に少し驚いてしまう。 「パパ?どうかしたの?」 「む……」 横から現れたセラクリスを見て言葉に詰まるキャンベル卿。彼女は別の役割をもって父とは遠くの配置で座っていた。 これ以上先の言葉を娘の前で話すわけには行かないのだろう。俺はエドワードとして会釈し、神妙な顔で此方を見つめるキャンベル卿から踵を返して立ち去った。
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