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市民会館を出て、何の気無しに外を出歩く。目的地は無い。
人々は恐れをなして再び屋内に閉じ篭もった。無理も無い話だ。
閑散とした状況を利用し、思考に意識を馳せる。これからの方針を考えなければならない。
直ちに向かいたい。だがそれは無謀だ。
《キャンベル》から《ライゼンバーグ》へは一本道で通じる。その距離は二日もあれば十分だ。現にカイルとセラクリスが二人徒歩で此処までやって来た。
だが、それは“第一波”を終えて僅かに落ち着いていたからだ。例の新種の魔物───この際魔族の眷属と言っても良いだろう、奴らがどの市町村を襲ったのか確認が取れていたから人々は行動に移せた。
今度は違う。自給自足と僅かな村間交流で機能していた佗しい村々までもが襲われた。それに加えて通常の魔物も不規則な動きを見せて小さな村を蹂躙するのだろう。
危険度が読めない。今市外に足を繰り出すのは自殺行為に他ならない。
この状況を打開するのに相応しい武器は何だ……。
「大群で……いや、だが………」
それでも危険だ。通常、未開地の探索は十人以内が相応しい。だが、それだと今度は戦力が足りない可能性がある。
俺一人が逃げ足で切り抜けても二日は持たない。
実質、《ライゼンバーグ》への道は現状絶たれていると考えても良い。
「………」
懐から、目が腐るほど見飽きた黒い紙を取り出す。
“我々は現実を知る。我々は見ている。粛正は終わらない、この世に欺瞞が蔓延る限り。”
この文の意味は何だ。人間が何かしらを自覚してその改善を行う事で魔物の襲撃が止まる事は何となく理解できる。
ただ、明確な入り口が分からない。このような文言だ、奴らは人間の全ての欺瞞を忌み嫌っているわけではないだろう。
何か、奴らの琴線に触れるような人間の汚さがこの状況を作り上げている。
ラジェナリア孤島でドールから聞いた話は何だった………人体実験から始まった。そして、その被験体から生まれた子こそが自然生物として生まれた“魔族”だった。
だかそれは百年以上、下手をすればもっと昔の話だ。現代に命を残す者がそれを遠因としてこのような大事を起こすには非現実的な話だ。
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