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「ドールか………」
全く掴み所のない貴人にして奇人だ。奴なら恐らくこの件の事も何か掴んでいるのだろう。
────“『急いだ方が良い。』”
「!」
思い出した。ラジェナリア孤島で、奴は最後に助言をするような言葉を残していた。そして俺に銀色の立法石を残して消えて行ったんだ。
「“祖父からの贈り物”………」
収容空間から取り出し、改めてそれを見回して確認する。うむ、ただの銀色の石だ。
それしか言いようが無い。模様は一切無し。欠片の歪みも見せないそれは曇天の下でも売れば高値の付きそうな美しい輝きを反射している。
「何だこれは……」
というより俺は今何をしているのだろう。ドールの事を考えれば考えるほど思考が正しい道から脱線して行っているような気がする。
このままでは思い付くものも思い付かない。
「何も出来ないというのか………」
八方塞がりとはこの事か。しかも物理的な意味でも合っているときた。いい加減苛立ちが沸いてきた。
「………ギルド、だよな。」
気が付けば目の前にあった建物。キャンベル支部、《イーストポーン》。
何か情報を得るなら通信社よりも此方だ。ここの通信社は国との繋がりしかないから民間には寄り添っていない。それに対してギルド連盟は各地方に散らばって情報交換を可能にしている。
………入るか。
建物に入ると人の姿は見えなかった。だが、奥からは多数の気配がする。恐らく話し合いが行われているのだろう。
その気配に向かって足を進める。
廊下の入り口の扉を潜ると話し声が聞こえた。これからの事を話し合っているのだろうか。
戸の無い空き部屋を一瞥しながら声の元を辿る。
見慣れた対策室だったために、俺は断りも無しに普通に入室してしまった。
話し声が止まる。
「………エドワード殿?」
「あ、いや……」
「む!エドワード殿!話し合いに参加してくれるのか!?」
「あ、ああ………」
熱意に満ちたキャンベル支部のエース、ロギンス殿が俺の返事に唸るような咆哮を上げた。何故だ。
此方もまた一堂に会している。恐らく先程の議会が閉じてから真っ先に此方に向かったのだろう。
俺はどれだけ紆余曲折した道を通って来たんだ……。
ふと辺りを見回すと、見慣れた三人の姿もあった。
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