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話は小規模な活動をするように纏まった。状況は襲われている市町村に比べれば遥かにマシだが、それでも危機に脅かされている事には変わり無いため、近辺の防衛で精一杯のようだ。
「C班は市外南の林道を────」
「火属性の者は砂丘のある────」
早くも決定がなされ、役割の振り分けが行われる。計画の進み方は如何にもギルド特有と言えるものだ。
忙しそうだな……。
「………」
魔物の群れがばら撒いた黒い紙の内容については一切触れられる事はなかった。不完全燃焼どころか焦げが付いた程度だ。俺の懸念は何一つ晴れてはいない。
こうなれば片っ端から調べて行くかな。最悪、またキャンベル卿と真正面から腹芸でかち合う事に事になるかもしれないが、やむを得ない。
「そして、市内に関してじゃが───む?」
考え事をしていると、ムーラン殿が変な声を上げると同時に場が静まり返った。俺も釣られるようにして顔を上げると、対策室の入り口で深い息遣いをして肩を上下させている少女が居た。
「い、居た……ッ……!」
「え……?」
乱れた桃金色の髪が頭から発せられる湯気?熱気?のようなもので揺ら揺らと踊っている。もし茶髪だったら「あ、鰹節」と東洋系冗句を並べていたところだ。
それよりも鬼神のごとく吊り目をさらに吊らせているセラクリスの表情が怖い。
俺を震える手で指差すと、ズンズンと覇気を纏って近付いて来た。
思わずジョットの肩に縋(すが)る。おい、払い退けるな。
「な・ん・で、ギルドに居るのかしら?」
「いや、何故って………」
すっと伸ばされた手が俺の襟元をそっと掴む。強引に胸倉を掴まない辺り言外の凄みが有って余計に怖い。
ジョットが俺から距離を開けた。開けないでくれ。
「パパから貴方を連れて来るように言われたからギルドに居ると思って行ってみたら居ない……それなら宿舎に居るかと思って行ってみたら居ない……療養所にも市民会館にも居なかったわ……。
何故よりにもよって最初に訪れたギルドなのよッ!」
「それは………あ。」
そうだ、俺は市民会館の議事堂から考え事をするためにわざわざ迂回してギルドまで来たんだ。
セラクリスと入れ違いになったのはそれが原因か。通りで鉢合わせなかったわけだな。
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