無情の選択

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「お落ち着きなされセラクリス様。エドワード殿に悪気は無いのですから。」 「……つ、疲れたわ。」 ムーラン殿に諭され、俺の眼の前で肩を落とすセラクリス。口を挟まれシラけた事と体力的な疲れが重なったのだろう。 お世辞にも柔らかいと言えないソファーの背もたれに縋るようにして身体を預けている。 事務員が飛ぶようにして水を運んで来た。あまり意識していなかったが、そういえばセラクリスは大層な御貴族様だったな。 「いや、怖いから……」 ソファー背もたれの側面から顔を半分だけ覗かせて鋭い眼光で睨んで来る。 事情は大体察したが咎められる言われは無い。ただセラクリスが空回りしただけだ。 「それで?君が俺に何のようだ?」 「だからパパが───き、気が効くわね……」 「だろう?」 問いかけながら《変化球》で作り出した銀色の櫛を手渡す。最近は特に脆く感じるが、髪を解く程度なら普通に使えるだろう。 「パパから貴方を呼んで来るように言われたのよ。」 「何故だ?」 「私が聞きたいくらいよ。まさか、パパが特定の誰かに肩入れするかもしれないだなんて……」 「………」 間違い無くキャンベル卿は俺を邸宅に保護しにかかっている。あくまでも貴族としての規則に則るつもりだ。 はぁ……もう少し柔軟な考え方が出来ないものか。 だが、それに娘を遣わせたか。もしかするもう躍起になっているのかもしれない。同じ貴族なのだから娘にも正体を明かせという事だろうか。 でも此処で阻まれるわけには………いや、待てよ? 「ムーラン殿。」 「ああ、構いませんぞエドワード殿。儂等は無理強いはせん。」 「助かる。」 ムーラン殿に行っても良いかと確認して許可をもらう。正直ギルドは俺にとって無意義だから助かったと思うあたり、やはり俺は損得勘定な部分があるんだろう。 ソファーから立ち上がり外に向かおうとすると、ジョット達と目が合った。 「スローラル(ここ)に来てから別行動は実質初めてか。怪我しないようにな。」 「わーってるっつの。」 お互いに察しているのだろう、これからは別行動が増えるという事に。余計な言葉を交わすような事はしなかった。 俺は連行されるようにセラクリスに連れて行かれた。
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