無情の選択

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「長い道のりだったわ……」 「“見つからなかった”という選択肢は無かったのか……」 「パパなら捜索隊を作るわね。」 「無かったな。」 どうやら娘として父親の堅さは理解しているようだ。かく言う彼女も俺からすれば堅い性格をしているとは思うが。 「私は貴方が簡単に付いて来るとは思わなかったわ。」 「ん、何故だ?」 「何故って……あんなにも主張をぶつけ合っていたじゃない。」 「ああ……」 この市に来て二日目の、エドワードとして初対面した日か。連絡通路の存在を巡って貴族の責任の話にまで発展していたか。 思えば、あれはキャンベル卿が俺を貴族だと疑う理由の一つになっていたんだろうな。 って、セラクリスは昨日俺が家を訪れた事を聞かされていないのか。キャンベル卿もある程度の配慮はしてくれているようだ。 「君は盗み聞きをしていたな。」 「ちょっと。仕方ないじゃない、あの空気に堂々と入り込めるほどの度胸は無いわ。」 「良いんじゃないか?人知れず情報を掠め取ろうとするところはこの情報都市を支える者の鑑だろう。」 「……嫌な人。」 呆れたように半目を向けられる。もう少し食いかかって来るとは思っていたが、思っていた以上に大人なようだ。 俺の記憶ではエル・ソルトは彼女から酷い罵声を浴びせられていたが。 「ねえ……貴方って、妙に貴族に関して詳しいわよね。思う所でもあるの?」 「国政に干渉する存在だぞ、興味が有るに決まってるだろう。常日頃から彼等には理想の姿を求めているぞ。」 「……耳の痛い話ね。」 しかも俺に言えた事じゃないという。 口から滑るように吐き出された言葉だ、本音ではなく言い訳として出てしまったと心に楔を打っておこう。 「少なくとも、君は期待以上なんじゃないか?」 「そ、そうかしら?」 「普通の貴族は直接犯罪者に挑もうとしないさ。」 カイルから身を呈して守られ、セラクリスは無力感に苛まれていた。その姿を見た時、壁を乗り越えた先に在るのは成長の二文字だ。
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