運命の日

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「…………」 「何だ………あれは。」 最初に動揺を口にしたのは兵隊長の中の一人だ。赤く染まる夕日の方を向いて目を見開いている。黒く蠢く飛行物体は此方に向かって来ているようだ。 「………王都全体に結界を張っているが、何が起こるか分からぬ。待機中の巡回兵を総動員で出動させるのじゃ!避難勧告を発令する!民を王立学園の敷地か今城に向かわせるのだ!」 「ハッ!!」 王都全体の結界に加え、さらに王立学園の敷地や城に黒血阻害の結界が張られている。あの蠢くものが魔物とするなら、総じて二重の防御を誇る学園や城こそが安全なのだ。 「各兵隊長は隊を引き連れ巡回を担当している区域に散らばれ!隙間無く防衛が可能な状態を作り上げるのじゃ!」 「ハッ!」 アデルの指示によって全ての兵隊長が城内の宿舎へと駆けて行く。迅速な対応は普段から訓練されているため、腕の見せ所と言えよう。 「陛下と殿下は姫殿下を引き連れて城内へ。私は一度屋敷に戻ります。」 「ヨハン……その後はどうするつもりだい?」 「妻と息子を避難させた後は臨機応変に対応させて頂きます。腕には自信があるので。」 「………分かった。健闘を祈るよ。」 ヨハンはゼノンに見送られると、ウェルを送って往復を繰り返した馬車の元に足早に向かおうとする。すると、直ぐ横を慌てた様子の衛兵が走り抜けて行った。 只ならぬ様子にヨハンは訝しげな顔を浮かべてその姿を目で追う。 「報告しますッ!第二区にて正体不明の小型の魔物が大量に発生!ルキ・ネスト卿を筆頭に既に戦闘が始まっております!ギルドが住民の避難誘導を急いでおります!」 「────ッ!!?」 「何じゃとッ!!」 アデルは平静を崩すと、街の方へ顔を向けて冷や汗を垂らした。すると、悲鳴のような騒がしい喧騒が僅かに此方まで伝わって来ていた。 「何故だ!魔物が王都の結界をどうやって掻い潜ったと言うんだ!」 「わ、分かりません!皆様、早く御避難下さい!」 「ッ……フロール王国よりも手厚い強襲じゃないか。」 「殿下!魔物は直ぐそこまで来ています!直ちに避難を!」 分析している場合ではないと、衛兵は急かすように叫ぶ。そんな彼の肩をアデルが強く掴んだ。 「黙れい!何れにせよ原因の究明は急がねばならん!会議室に向かうぞゼノン!」 「分かった!」
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