運命の日

72/72
14317人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
「……….ごめんなさい……ごめんなさいッ……!」 「シェリアさん!」 強く謝り出すシェリアの肩を強く揺さぶり目線を此方に向けさせて黙らせる。これ以上の言葉は逆に状況を悪化させてしまうからだ。 「貴女が謝る事じゃない……!今の貴女の姿を見て責める人は居ないわ!」 「でもっ……でもッ!!」 「この避難行動には幾つもの無理が有った!完全な身の安全が保障されない事は誰もが分かっていた事なの!」 逃げ遅れた一人が死んだ。自ら戦場に足を踏み込み、死んだ。誰かの身代わりとなって、死んだ。 戦場において、それはもはや各々の責任なのだ。逃げるだけならば自衛能力が問われる。死んだとしても誰にも文句は言えない。 「────弱者が多過ぎたのだ。」 ウルがアリアスの言葉を補足する。その言葉を聞いた周りの人々は自責するように面を俯かせた。己の無力さはここに居る全員が自覚している。 死者数名。負傷者、十数名。 明確な数字はまだ出ていない。死人が出た事実はとても悲しいものだ。 それでも、全体の半分以上が魔術を知らない、忘れた者達であるのにも関わらずこの結果が生まれた事は奇跡に近かった。それこそウルやアリアスの手腕を加味されている。 「ああぁあ………ああああっ………!」 「………」 補助魔法を使い続けたシェリアは既に二度目の魔力の枯渇を迎えているはずだ。恐らく彼女は今身体を動かせないほど辛いはず。 しかし、シェリアは両手を固く握り締めて地面を叩く。この悔しさをぶつけられずには居られないのだ。 彼女は確かに強くなった。しかし、それと同時に責任感も備わって行った。 今回ばかりは、それが自分の邪魔をする。悔しさよりも悲しみの方が勝っていたであろう前の自分であれば、それを他の大勢の人々と共有出来て直ぐに冷静さを取り戻せていただろう。 「ああああああああッ……!!!」 だが、“貴族としての大人”になってしまったシェリアに、これらの惨劇を傍観して甘える事は許せなかった。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!