遅過ぎた帰還

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倒壊した建物の中から、見るも無残な亡骸が引き上げられた。男達は眉根を顰(ひそ)めながら、慣れた手つきでそれを炭に塗れた担架で運んで行く。 その様子を身守る人々の中に、俺ことエル・ソルトは居た。 最初は何の疑問にも思わなかった。ただ何となく肌寒くなったと溜め息を漏らしていただけの事だったのだ。 戦禍の傷跡の残る廃村を経て、数回の夜明けを外で迎えた。半分を過ぎた所で疑問に思った。 魔物の発生率が異常ではないだろうか。 初っ端から波乱に満ちた帰路だった。最北端の沿岸から最初の森に入った所で狼類種、鳥類種の魔獣の一斉奇襲を浴びた。 疑問は止まらない。 広範囲型の攻撃で一矢報いると、彼らは一斉に尻尾を丸めて逃げて行った。まるで何かに怯えているようだった。 前述の通りに夜を過ごし、やっとの事で最初の“生きた”村に辿り着いた時に初めて様子がおかしい事に気付いた。 荒れている……? 散らばる木炭、今にも倒壊しそうな家屋、所々に見える生気を無くしたような顔で歩く人々。 俺は髪の色を偽装し、船旅に出ていたと事情を偽って、村の人々に何が遭ったのか尋ねた。 『魔物が南から群勢となって大量に押し寄せ、人里構わず北の方へと駆けて行った』との事だった。 魔物は腹を膨らませる為に動いてはいなかったとの事だ。ただひたすらに畑の上を駆け抜け、家屋に突進し、外を歩く人々の上を踏み付けて去って行ったという。 幸いにも村の東側の幾つか宿は被害を逃れたため、そこで腰を落ち着かせる事にした。。復興活動を始めて既に数日を経ているようで、ある程度は落ち着き取り戻しているようだった。再建を完了した建物が目立ち始めている。 ……朝から無残なものを見た。 飴色のローブの前側を締め直し、拠点への帰路に着く。目覚めた時に俺の姿が無いせいで逃げたと勘違いされたら厄介そうだ。 ……いや、流石にそこまで深読みはしないか。 『おい急げ。』 『本当に来たのかよ?』 道の脇を二人の常駐ギルド員が早足で歩いて行った。何か非常事態でも起こったのだろうか。 俺は周りの人々の話し声に聞き耳を立てながら歩みを進める。
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