運命の日

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運命の日

「止まらないで!走ってくださいッ……!!」 喉の奥からかつて無いほど大きな声が飛び出す。それは悲鳴に近い声色を現しており、周りの人々はそれに呼応するように目の色を変えて駆け出す。 「ぐッ……ぁ…………!!」 「『ヒーリングアロウ』」 走りながら光の矢を使用した回復技を連射して行く。すれ違いざまに負傷している兵やギルド員に当て、応急的な回復を可能にしているのだ。 「『ライタルイラプション』!」 空に両腕に収まるほどの光の塊を放つ。球体とは言えないような曖昧な形をしたそれはゆっくりと漆黒の空へと昇って行き、小さな陽となって街を照らす。 左手でその維持を、そして地面に突き刺した弓に足を伸ばして支え、寝転がりながら空いた右手で弦を引っ張る。 「シェリア様ッ……汚れて───」 「気にしないで……!」 今更命のやり取りをしている最中に恥など気にするつもりも無い。汚れなど後で落とせば残る事も無い。 冷徹に、合理的に。 祈るように、泥に汚れる美しさを振り撒きながら有り余った魔力を魔武器に込める。 「『永遠の追跡者(エターナルチェイサー)』」 巨躯なる白金の光の矢を放つ。 継承魔法として受け継がれて来た力に秘められる特殊性、それを発揮するには魔力の量だけでは無く技術も要する。 敵の一体に命中する。継接(つぎは)ぎの身体が破れて十数個に砕け散った。 そして、巨躯なる光の矢はその何十倍にも分裂し、空から襲い来る幾つもの化け物を貫いて行く。 ………しかし、胸に穴が空いた程度の化け物は直ぐに自らの傷を修復させ、不滅のごとく立ち上がる。 「くそ!どうなってやがる!」 ギルド員か、それとも宮廷兵士か。直ぐに死を受け入れてくれない異物に対して悲鳴と怒りをぶつける。 それを横目で見ながら、シェリアと呼ばれた白金色の髪を持つ少女は冷や汗を伝わせる。 (せめて……皆が逃げ切るまではっ………) 目標を定め、左右の手から発している魔法の維持に徹する。地上の化け物から振るわれる爪打を飛ぶようにして避け、他の戦闘員に任せる。 「………エル君ッ……」 もう駄目だ。力が入らない。膝をついてしまいそうだ。 そんな弱気な感情が表に出る度に、彼女はフロール王国の騒動の時に見た彼の背中を思い出すのだった。 ─────────────── ──────── ───
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