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キャンベル解放作戦
────数日前。
暗雲立ち込める空。風の無い野原は音も無く静寂に包まれていた。生を否定するような枯れた花々が広がり、辺りの緑は消え失せ、凍てつく雪が所々に積もっていた。
そんな寂れた大地の上を、白いローブを纏った一組の男女が駆けていた。
「ちょっとカイル君?もっと速く走れないの?」
「無茶言うな……はぁ、何でこんな所まで来ちまったかな……大丈夫かよ……」
「安心なさい、友人に事情を嘘偽り無く話しているから。」
「いや、それもそれでマズいだろうよ……」
男の方は背が高く焦げ茶の髪を持ち、眼鏡を掛けている。顔には不安感を前面に押し出しており、溜め息を隠せずと言った様子で諦めの雰囲気を放っている。
名を、カイル・オルドック。スローラル王立学園の三階生Sクラスに在籍する者だ。情報収集を得意とし、それを武器に上手く立ち回ることで知られている。
片や、そんなカイルの前を走る桃金色のセミロングの髪を持つ少女もまた、カイルと同じ様な立場にあった。
名を、セラクリス・キャンベル。通称はセラ。小都市を治める上流貴族───キャンベル卿の一人娘でもある。
二人はかつて魔物の王都襲撃の際にウル・ソルトと学園長アリアスに連れられた避難生徒達の中にいた。
王都脱出後、商業都市に辿り着いた一行は其処に腰を落ち着けたのだが、故郷の安否を確かめたいと多くの者が名乗りを上げた。
情報の流れが途絶える中で、新たにギルドに配備されるという通信機器の運搬を待つよう、全ての避難民に忠告されたのだが、このセラはそれを待つ事が出来なかった。
其処で目を付けたのが、カイル・オルドックの存在。セラにとってはあまりよく知らない男ではあるが、偶然にも故郷とクラスが同じという優秀な生徒ではないか。此処で声を掛けないという手はない。多少なりとも足手纏いにはならないだろう。
………が、身の危険を伴う行動は避けたいと思うのがカイルだ。当然、セラの誘いを断った。
しかし考えたセラは直ぐに行動に移った。
恐れを知らず勝手に盛り上がる癖を持つ女子生徒にある事を吹き込んだ。
“カイルとキャンベルに行こうと思っている”。
あえて抽象的に放った言葉は瞬く間に脚色されて行った。最終的には避難生徒達の間ではカイルとセラが駆け落ちするなどという噂がまことしやかに囁かれるようになっていた。
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