屈せぬ心

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エドワードはそんな俯く彼女の姿を見ると、繰り返すようにクスリと微笑んだ。 「不思議な話かもしれないが、俺は今の自分の在り方に迷っていないんだ。」 「え、でも……エドは貴族の人だったのに………」 「あくまでも肩書きが、な。でも、貴族としての心が失われたわけじゃない。浮浪人が貴族を気取ってはいけないなんて事はないんだ。」 社会から消えてしまっても自分の中身まで変える必要は無い。生きる手段と大きな余裕があればその度に不足は補える。 絶望する時は、その手段さえも失ってしまった時だ。 「俺の場合は目的を持っているからだと思うんだ。やりたい事────成し遂げたい事が沢山ある。誰でもなくなってしまった今でも死なせたくない人達が俺の中に在るからだ。」 「目的………」 「そう。そして、その実現はあまりにも困難で、険しく、途方も無い。その苦しみが今自分は一人の人間として生きているのだと実感させてくれるんだ。」 エドワードが抱く彼女は年の割に小さ過ぎる体躯だ。一人の女性として認識するにはあまりにも無理が有る。失礼な話ではあるが。 でも、だからこそ彼女がまだ子供ように思えて愛おしく見えてしまう。ぜひ自分に守らせてくださいと思うほどに。 「君にも有るはずだ。やりたい事、欲しいもの、食べたいもの、また会いたい人、成りたい自分………」 「ぼ、僕は………」 「それが君だ。望んで良いし、頼って良いし、甘えて良いんだ。限度はあるが、俺やジョット達は君にそれを認めている。」 エドワードは自らを軽んじるジェムは見たくないと思った。《キャンベル》の宿舎で、セラクリス・キャンベルに平気な顔で、残酷な現実を語る姿を見た時はもどかしくなったものだ。 もし、彼女が自分のやりたいように生きる事が出来ていたならば。 やりたい様に生き、生の実感に包まれて己の正体を問う事も無かっただろう。恥を捨てる必要も無かったはずである。 「エド………」 「ん?………ふっ、それで良い。」 寝袋の中でどうにか手を動かし、寝袋ごとエドワードの胸元を掴むジェム。甘えると言うにはまだ必死過ぎる。縋(すが)ると言った方が正しい。 彼女の手が離れないように、エドワードはそっと小さな体躯を支えた。
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