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季節は冬。
雪虫が活発になり五月蝿くなってきた頃。
鼠色の空にチラつく雪は荒野に降り注ぐ灰のようだ。
高校3年のこの時期は進路で多くの生徒が悩んでいる。
僕もそんな中の1人だ。
佐藤太郎。僕にはこんな平凡で平凡すぎて珍しくなってきた名前を持っている。
親も親だ。
佐藤というつまらない苗字なのにさらに太郎という名前を上乗せしてきた。
何を考えていたのだろう。
名前のそのままに僕は成長した。
いやむしろそれよりも酷い。
頭が悪い。顔も平凡。帰宅部。夢なし。
このままついにこの岐路に立ってしまった。
大学に行く頭は持ち合わせていない。
どうせ就職も決まらずに暫くはアルバイト生活を送るのだろう。
そのまま年老いて孤独に死んでいく。
そんな未来がハッキリと想像出来てしまう。
今日も変わることのない進路を担任の先生と話し合ってきたところだ。
帰り道マフラーに顔の半分を埋めて足場の悪い雪道を歩いていた。
「おっす、太郎!おつかれ!」
表情が明るい、僕とは正反対のような男子が少し前で軽く手を上げている。
こんな僕にも友達はいる。
唯一と言っていいほどの友達だが。
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