第1章

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勉強机のチェストから、ひどく懐かしいメロディが聞こえた。中学校の頃によく聞いていたバンドのイントロ。やけに反抗的な響きを含んだメロディラインがとても懐かしかった。 古びた机の古びたチェストで、小学生のときに貼った、もうたいして好きでもないし名前も思い出せないキャラクターのシールが曖昧に笑いながらこちらを見ている。その横には綺麗に剥がせなかったシールの白い跡がある。いつものようにそれに眉をひそめて、わたしはチェストの引き出しを引く。もうメロディは終わっている。 奥底には中学校の頃に使っていた折りたたみ式の、いわゆるガラケーと呼ばれる携帯電話がぽつねんと置いてある。 メタリックなカラーリングのそれを引っ張り出した。おかしいな、とそこでわたしの脳みそは怖い方に駆け出す。おかしいな、数年前に充電器が壊れてしまって、それ以来充電出来てないはずなのに。 ピンクの筐体にぺたりと貼られた中学校の頃のわたしと、中学校の頃の友達が、プリクラの機械にいやに強調されてしまった目でわたしを見上げる。ぴかり、と黄色にライトが点滅する。メール着信。 いいや、やめておこう。 わたしはチェストの引き出しの奥にそれをまたしまい込む。いいや、やめておこう。やめておこう。常識的に考えるの。数年前から充電されていないケータイ、数年前から使用料金を一円たりとも払っていないケータイ、それが動くとでも?
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