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ぱちぱち……ぱちぱち……。まばらな拍手は、学校の講堂という広い会場には寂しいものだった。
「ありがとうございましたー! まだまだ歌いますから、聴いてくださいねー!」
講堂のステージ上で、やや小柄ながらも元気よく、声を張り上げるツインリボンのボーカリストがいた。これが私。
「客席に何人おる?」
「ざっと数えて五、六人ほど」
その後ろで、ショートヘアのギタリストが関西弁で尋ね、ロングヘアなベーシストが残念そうに答える。
「空木さん、岡田さん、次の曲いくよー!」
「予想はしとったねんけど、観客がこれじゃ」
「やる気でないよね」
「ちょっと、お客さん少ないかも知れないけれど、来てくれてるのは私たちの熱狂的なファンだよ、きっと!」
「どうみても退屈しのぎか」
「休憩がてら、座りに来てるって感じだよね」
「そんなこと言わないの。天罰が下るよ!」
「天罰の代わりに、オカマが下ったりして……」
「オカマ? 岡田さん何を唐突に」
「……いるのよ。宮代さんの後ろに」
「ほえ? ええええっ!?」
私が後ろを振り返ると『オカマ』は、瞬時に私の隣で密着し、私の肩をしっかり掴んだ。身動きが取れない!?
「そのマイク、ちょおぉだい☆」
「ひいっ!? は、はいっ」
オカマは私からマイクを奪いとると同時に、数名の男たちがステージへと上がり込んでくる。
この状況は一体何なの!?
「みなさんお待たせ。ライブジャックのお時間よぉ☆」
「ライブジャック!?」
「平たく言うと、乗っ取りかしらね? うふ☆」
可愛らしく喋っても、オカマはオカマだ。衣装だけ見ると女性っぽいが、ゴツい体格に加え、顔や声が、典型的な男性なのだ。しかも少し汗臭い。
よく見ると薔薇で彩ったキラキラなドレスで身を飾り、キュートなフリルとリボンも付いている。これに合う表現は『不気味』である、としか言い表せない。
「そう怖がらないで。食べたりしないから。んふ☆」
食べられてたまるかっ! どうしてこんな事になっているの。今日は楽しい女子校での女子による女子だらけの学院祭の真っ最中だったはず。それがなぜ、オカマがいるの。
講堂を使ったステージイベントで、ポピュラーミュージック同好会による『みんなで盛り上がろうアニソンライブ!』という題目で、ライブ演奏をやっていたのだ。
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