溺れる魚は刹那の夢を見るか

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「ありがとうございます 」 しかしくららは、言葉とは反対に差し出されたメニューには一瞥もせず、キョロキョロとして見つけた店員に手を上げた。 「すみませーん! 」 「はーい! 」 「追加で、生中一つ 」 元気に寄って来た店員に自分の分を注文すると、テーブルを見回して声を掛けた。 「他にはいいですか? 」 『あ、こっちもー 』と、誰かが注文しようとする声を聞いて、くららはしっかりと椅子に腰掛ける。座りが悪い。 横から、じっ……とこちらを見詰めてくる遠慮の無い視線に気付かない振りをしたかったが、そういう訳にもいかず「何ですか? 」と笑い掛けた。 「結構、飲むの? 」 「嫌いじゃないです 」 「そうなんだ。 へぇ、意外 」 わざとらしく目を円くした男に、カチンとくる。 どんなイメージを持っていたかなんて知らないが、そんなのはそっちの勝手だ。 「いいんですか? 隣りに座ってた子と気が合ってたみたいだったのに 」 真梨香の方に目をやると、片桐と呼ばれるこの人の後に隣りへ座った人は、この人と比べて随分と見掛けが地味な雰囲気の人だった。 明らかに真梨香のタイプではない。
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