Prelude

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我が祖国に戻るのは、果たして何年振りのことだろうか。 極寒の地。物心がついた頃から、私はかつて『北欧』と呼ばれていた地域の、とある国で暮らしていた。 ノルウェーと呼ばれたその国は、世界の滅亡によつって雪と氷に閉ざされた世界になってしまった。 遥か昔には四季があったという。しかし今は、気候変動によって寒期が伸び、とても短い夏と長い冬の繰り返しだった。 このままだと、暫くの間(天文学的に言うところの、だ。)は夏期が短くなり続けるのだという。 これはノルウェーの人々が、自然と共に生きるという選択をした結果なのだと祖父は言っていた。 世界が滅びる以前。 技術改新による環境の急激な悪化に、ノルウェーは警鐘を鳴らし続けていた。 温室効果ガスによる地球温暖化、それに伴う海流の変化や気候の変化、不漁不作、飢饉。 その昔から言われていたことだったにも関わらず、ホモ・サピエンスという愚かな寄生虫は、目先の利益しか考えていなかった。気候調整の技術があるからと、天空の支配者になった気でいたのだ。 そんなもの、ただの箱庭遊びに過ぎないというのに。 世界は既に、技術先進国の天下だった。神になったと錯覚していた先進国の人々は、大多数の他の国の事なんて二の次だった。箱庭の外には目もくれず、同盟関係に基づき技術をただ提供するだけ。 便利な力を授けましょう。これで貴方の国は助かりますよ。 力を持っていても、使い方を知らなければ意味が無い。大きな力を制御なしに振るうことは、気づかぬうちに周囲にダメージを生み出していく。そして訪れる格差社会、食糧難。そして治安の悪化、紛争。 一見プラスに見えることが、力の暴発により、悪循環を産み出していたのだ。 このことが、世界の荒廃振りに拍車を掛けていた。 このとき、自然に寄り添い生きる為のノルウェーの技術は、時代遅れだと見向きもされなかった。 当時、優秀な研究者であった祖父も、昔からノルウェーでは主流であった水力発電や風力、地熱発電、燃料電池といった、環境負荷が少ない技術の向上を世界に訴え続けていた。しかし、それはただの嘲笑で一蹴されてしまっていたのだ。 「欲に溺れた人類の失策だ」 祖父が哀しげに呟いていたことを、私は絶対に忘れないだろう。
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