第二章:9月21日

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そこにあったのは、恐ろしく血の気のない怒りにも悲しみにも似た表情の女性がデカデカと映し出された。 「うおっ!」 変な声と共に携帯を椅子の反対側にある、ベットに向けて反射的に投げてしまった。 「なんなんだよ……」と僕は軽くパニックになりながらも、恐怖で荒くなった息を整えようと努力する。日差しは傾いて既に薄暗くなっていた。その窓ガラスには僕の驚いた顔を映っている。それが何故か先ほどの画像を彷彿とさせ。僕は本能的に、カーテンを隙間が無いように閉める。 そして携帯をどうするか考えた。携帯はベッドの上で沈黙を守っている。 「いやいやいや!ないない!ホラー話じゃないんだから!誰かに悪戯にきまってんだろ!!」 一人しかいない部屋で、僕は怒りにも似た虚勢をベットに向けて張る。大声で何度か独り言を吐いて自分を躍起させようとするも、怖いものは怖い。携帯を放置して、いっそ下の階でテレビでもみるか。 そう思った矢先に携帯にメールが届く。 「勘弁してくれよ」 まるでホラー映画の配役になったような気分だ。椅子から立ちがるのも出来ないで、僕は携帯を注視する。今にも携帯の中の女性が出てきて、僕を引きづりこむような恐怖のイメージが沸く。 それを落ち着かせるために、そんな現実離れしたことなんて起こるわけない――。と自分に言い聞かせる。それでも、もしかしたら。という不安が頭をめぐる。 暫く携帯とこう着状態を守るが、携帯はベットに突っ伏したように変化がない。それはそうだ。なんも触らなければ動いたり鳴いたりすることはない。 僕は呼吸を落ち着けて、平静を装う。椅子を盾にしながらジリジリとベッドに近づく。そして、おもいきり携帯を掴む。画面を見ると不気味な表情の女性と対峙する。しかしよく見ると、それは人間の女性ではない。ただの人形だったことに気が付いた。 「誰だよこんなの送ってきたやつは!」 安堵と共に、こんな画像送ってきたのは誰だよ……。と怒りながらアドレス欄を見る。送信者は優美の奴だった。 その後のメールにはこの人形可愛くない?儚げな感じが良いよね。と書かれている。 「可愛くねーよ!怖いから!!」 と罵声に近い独り言を吐く。僕は携帯を閉じた。優美の下らない趣味だと解って、僕は安堵しながら携帯を机の上に置く。今はメールに返信できる余力はない。
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