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「なんていうか、進路どうしようか考えてさ。多分それのせいじゃないかな」
先生以外が喋らない教室で、隣の席に座っている春人とヒソヒソと話す。話しながらも僕は先ほど、転倒した場所が痛むのに気が付いた。どうやら今の今まで気づかなかったけど、けっこう強く打ったらしい。鈍い痛みが僕の頭に広がって、打った場所はたんこぶみたいにうっすらと腫れている。
先生が一瞬こちらをチラリと見たことで、僕らは気まずくなり会話を切り上げた。僕は鈍痛がする額を撫でながら、黒板に描かれているよく解らない数学の公式を書き写す。
来年の受験は失敗しないだろうか。不安ではあるものの、僕は授業を受け続けた。90分間の苦行が終わって休憩時間になる。春人が自分の席に座りながら話しかけてきた。内容は他愛ない話で、僕はこの時間がいつまでも続けばいいのにと思う。受験も辛いけど春人などの仲の良いクラスメイトと、離れてしまうのは寂しい。そう考えながら、何人かのクラスメイトと共に次の時限の為に音楽室に向かう――。
音楽室に到着すると、ピアノの置いてある広い部屋に長机が幾つもならんであった。音楽の時間は好きなように席に座ることができる。とは言え、大体は仲良しグループで固定されているようになるけど。
僕も春人の隣に座ったのだけど、今日は良く一緒にいる優美がいなかった。
「なぁ、春人。優美って欠席なん?」
「午後かららしいよ。そういえばさ、去年のこと、覚えてる?」
春人は音楽の教材を置きながら、ふと思い出したかのように聞いてくる。「去年のことって?」 僕が質問に質問で返すと、春人は呆れたようにため息を吐いた。
「優美の誕生日だよ、君が企画した誕生日。忘れたのか?」
「あー!サプライズ誕生日?それがどうしたんさ」
「雄太もうじき誕生日だからさ!やってあげようか?」
笑いながら春人はそういった。
サプライズ誕生日――。聞こえは良いけど、ドッキリ企画的な感じで相手を驚かせて誕生日を祝う身内的な楽しみではある。でも、企画を立ち上げるのは好きだけど、されるのは好きではなかった。僕はムッとしながら春人の顔を見る。
「僕はいい。つーかやったら来年の誕生日は覚えとけよ」
「わかってるわかってる。そんな怒った顔するなよ。それに雄太なしじゃ企画できないしね」
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