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他愛もない話をしている間にチャイムがなって、皆が自ずと静かになる。そして少し遅れて音楽の教師が、慌てながら教室に入ってきた。その先生の慌てぶりを見ていて、僕は携帯にメールがきていたのを思い出す。しかし、流石に教師が来てからは見られないな。
音楽の時間は受験とは余り関係のか、今日もビデオ鑑賞をすると教師は皆に話す。僕はこのビデオ鑑賞が好きだ。学校の授業で唯一の癒しと言っても良い。今日はクラシック音楽の悲愴を視聴して、感想文を書くという授業。僕はこの悲劇的な曲を聞きながら、作曲家はこの時なにを思っているのか夢想するのが大好きで、特に当時の情景を考えながらクラシックを聞いていると、まるで小説一本を読み終わったような感覚になる。感受性が強いのだろう、絵とかを見て泣けたりもする。
「こういう授業ばかりならいいんだけどなぁ。そう思わないか?」
そう春人に話しかけるが応答がない。
隣に座っている春人は机に突っ伏した状態で動かない。ものの数分でこれか――。僕はささやかな怒りを感じながらも、音楽室を見渡すと大半の人が同じように寝入っている。思わず皆も疲れているんだなと、苦笑いを浮かべる。教師もそんな生徒達を眺めて、「まぁ仕方ない」と言う表情を浮かべていた。ただでさえ今から勉強漬けで、今から受験勉強を急かされてるんだ。休むには丁度良いのかもしれない。
僕は聴き終わったクラシックの感想を独特な夢想を交えて書き上げる。これが音楽の先生には好評で、「楽しみにしているよ」とまでいわれるのだから嬉しくて、つい熱が入ってしまう。
書き上げた所で終了のチャイムがなって、先生へと提出する。二限を終えてお昼休みになると、丁度お腹の虫が鳴く。僕は両親が共働きで忙しいから弁当がない。春人と教室に入る前に別れて、急いで購買部に行ってパンを買ってくるのが日常だ。
混雑する中でなんとかパンを買って購買部から戻る。その時ふと今朝の携帯のことを思い出した。携帯の画面を歩きながら見ると、そこには新着メール1通という文字が表示されている。どうせダイレクトメールだろうな。そう思って、削除しようと買ったパンを片手に僕は携帯のメールを開く。メール本文の画面には、件名はなくただ一行だけ書かれていた。
≪残り5≫
ただ、そう書かれているメールだった。誰かの悪戯メールだろうか。
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