昨日の敵は…

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「……とても親とは思えない発言」 「親だから言うのよ。アンタも親になってアンタみたいな娘持てばわかるわよ。きっといまの私とおんなじこと言うから」 「言わない」 「言う。ま、いまこんな話しても水掛け論。だからさっさと娘でも息子でもいいから産んじゃいなさい。悠二さん、幾ら忙しいって言っても、子ども作る時間がないわけじゃないんでしょう?」  さすが母親。いや、この母親だから?  遠慮なしにずけずけと娘夫婦の家族計画にも踏み込んでくれて、そしてこのまま会話を続ければ、最近いつイタしたのかなんてことも訊いてきそうだ。  それはさすがにご勘弁していただきたい。と言うわけで――、 「ところで、弐壱と三和は?」  弟と妹を利用してそう話題転換。 「三和は部活。午前で終わりのはずだから、あと1時間もすれば帰ってくるんじゃない? 弐壱は、……哲(さとし)くんの家に行ったわ」  ずんと空気が重くなった。  哲は従弟。割と近くに住んでいて、昔からよくこの家に遊びに来ていた。  そのときはあたしや三和とも遊んだけれど、1番の遊び相手は何と言っても、同じ歳の弐壱。  幼稚園、小学校、中学校、高校と学舎がおんなじだった2人はずっとべったりで、特に弐壱は、本人気づいていたか知らないけど、哲のことを『テツ』と呼んで、その呼び方を他の人間がするのを許さないって公言してたり、他にもあれやこれや、とにかく昔から哲への独占欲丸だしだった。  まあでも、その欲をぶつけられる哲に嫌がってる風はなく、だからほっといていたのだけれど、だけど、いまとなっては――哲が、いまの医療では手の施しようのない病で逝ってしまったいまとなっては、2人の関係に口出しして、少し距離を置かせるべきだったんじゃないかと悔やまれる。  だってそうしておけば、弐壱があれほど落ち込むことはなかったんじゃないかと思うから。  1人息子を亡くして、だれよりも落ち込んでおかしくない哲の両親――おじさんとおばさんは、もちろんすごく落ち込んだけれど、哲の死から9か月ほどを経たいま、徐々に哲の死から回復してきている。  ところが弐壱はそうではない。  哲の死の直後から、表面上はおじさんやおばさんほど落ち込んでないように装って、時におじさんやおばさんを励ますこともしていたけれど、実はずーっとおんなじレベルで落ち込んでいる。
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