昨日の敵は…

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 24年間、弐壱の姉やってるあたしにはそれがわかる。  ……何で弐壱が、親であるおじさんやおばさんよりも、幾ら仲が良かった従兄だったとは言えそうなっちゃっているのか。  それもたぶん、いやきっと、あたしはわかっている。  弐壱の子どもっぽい独占欲が変わったと感じる瞬間が幾度かあったから、だから心配だった。  哲の死以来ずっと、母親かあたしか三和かと一緒じゃないと行くことのなかった哲の家に1人で行ったことが、とても。  ……迎えに行ってやろうかな?   それで、帰りはどこかでご飯食べて、吐きだしたいものがあるなら、それを聞いてやろうか?  と、そんなことを思っていると――、 「一華、電話。出て」  いつのまにか支度を終えた母上さまはそう言い渡し、そのままご自分は出かけるつもりか、リビングを出ていった。  いや、この家にかかってくる電話はあたし宛てじゃないでしょう?  それなのにあたしが出るの? そんでご自分は出ないで出かけちゃっていいの?  そんなことを思いつつソファを立って電話に出る。  すると電話の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきて、思わず、 「悠二!?」  と、夫の名前を呼べば、 『そうだけど、何でそんなに驚いてるわけ?』  と、夫の冷静な声が返ってきた。 「だ、だって、まさかこの家の電話を取って声聞くなんて思わなかったから」  そう言ってはっとする。  まさかあたしではなく母上に離婚通達するつもりだった!? と。 『一華のスマホには何度か電話した。でも出ないから、それでこっちに電話した。弐壱くんや三和ちゃんならいいけど、お義母さんが出たらどうしよう、怒られるかもってドキドキしながら』  ドキドキするって言うなら、それなりの言い方しなさいよ。  あんたデフォルトのその冷静な口調じゃ全然その気持ち伝わってこないんだけど。 『で、今回はどうして? 家出の原因は、朝帰りのことですか?』  仕方ないじゃないか、仕事だったんだから。  と、いまの言葉の裏っ側で副音声みたいに流れていく言葉が聞こえた気がして、ムカッ! 「確かにね! 確かに最後のひと押しはそれよ!」 『つまり、他にも原因はある、と。それは何?』 「タダで教えるわけないじゃない!」 『タダって、それ教えてもらえないと謝るにも謝れませんよ』
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