昨日の敵は…

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 これまでの家出は、母上さまに帰れと言われて渋々帰るがパターンで、悠二が迎えに来るなんて初めてのことで、ムカムカムカッ! は、プシューッとガスが抜けたみたいに力を失くし、でもだからって、「うん、わかった。待ってるね」なんて言えないあたしのご性格。 『そのすることって謝ること? 俺はいいけどね。でも一華はそれでいいの? 顔見ないで電話越しに謝るでいい?』 「……良くない」 『じゃあこれからすぐに迎えに行く。ええっといまからだと、……1時前後くらいか? だったら、帰りに街寄って、昼食べて、うん、そうするにはちょうどいい時間だ』  ちょっと勝手に決めないでよ。  と思いはしたものの、その言葉は心の中に留めた。  だって2人で街に行ってお昼食べるなんて久しぶりだし。  そう思う一方、弐壱にごめん。  迎えに行って一緒にご飯を食べようと考えていたから、そう。  本人と約束したわけではなく、こっちが勝手にそうしようかと考えていただけだけれど、一応そう。 『ところでさ、俺のメガネ知らない? 見当たらないんだよね』  弐壱にごめんと思った直後、悠二がそう言ってきて、ぎくり。そしてワスレテタと思い、さっきまで座っていたソファをちらり。  そこには家出の供としたバッグが置いてあり、バッグの中には攫ってきたものが――悠二のメガネが入っていた。 「知ってるって言うか、……持って来てる」 『持って来てるって、一華が持って行ったってこと? どうして?』 「……」 『一華?』 「……だって、しょうがないじゃない。そっちが悪いんだからね!」 『悪い? 俺が? それでメガネを持ってったって、……ええっと、話が見えないんだけど』 「それは、……見てるから!」 『いやだから、見えないって――』 「じゃなくて! あたしのことは最近全然そんな風に見ないくせに、メガネのことだけはいっつもいっつも愛しそうに見てるから! 腹が立ったの! それで引き離してやったのよ!」 『は? 愛しそうって俺がいつそんな、……もしかしてそれってさ、レンズが汚れてるかどうか見てただけじゃないの?』 「そうよ!」 『そうよって、そんな力強く。あのさ、――』 「それだけじゃないんだからね! 見てるだけじゃなく扱いも丁寧! それも腹が立つの!」
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