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『そりゃあ、雑に扱って壊れたら困るから。一応スペアはあるけど』
「は!? 何よスペアって! そんなの知らない!」
『いや言わんでしょ、わざわざ。このメガネのスペアがありますよって』
「言ってよ! 何よ! スペアがあるんだったら、あたしがやったこと無意味じゃない! すごい馬鹿じゃない!」
『馬鹿って、……ごめん、ちょっと』
「ちょっ! 何よごめんって! ねえ! 聞いてるの!」
呼べども叫べども返事がない。電話の向こうからは息づかいさえ聞こえてこない――ってどういうことよ!
馬鹿なんて言って、そのあとごめんって、何!?
いなくなったでしょう! 電話置いてどっかに行ったでしょう!
せっかくせっかく、迎えに来てくれるって言うからせっかく、……嬉しかったのに。
『お待たせ。それでさ、計画変更するけど、これからすぐに迎えに行くけど、帰りはどこにも寄らないで帰ろう。あ、でも、冷蔵庫に何にもないなら近くのスーパーで弁当か惣菜か買って、昼はそれで。街行ったり、どこかで昼食べるのはさ、また今度ってことで』
「何よそれ、勝手に! それに、その前に、いま電話置いてどこ行ってたのよ!」
『あ、どこかに行ったのばれてた? ちょっと寝室まで行ってた』
「はあ!? 何で電話途中で寝室に行くのよ」
『いやあ、機嫌損ねると思ってさ。電話口で笑い声出したら』
「はあ!? 笑ってたですって!? あんたちょっと――」
『だってあんまり、一華がかわいいこと言うから、堪え切れなくて』
ぴたっと喉まで来ていた言葉がそこで止まった。
そしてそのまま反転。バイバイと、喉から元の場所へとその言葉は帰り、代わりに出てきたのはこれ。
「か、かわいいって、あたしそんなの言った覚えない」
『そう。じゃあ教えるよ、ただし帰ってきたらね』
「な、何で帰ってから? いま言ってよ」
『いまはダメ。だって一華が傍にいないから。一華が、触れられるところにいないと、言えない』
電話の向こうから聞こえてくる声の質が変わった気がした。
これはもしかしてと思っていると、悠二は『あのさ』と言ってきた。
『メガネは大事だよ、一華。だってそれがないと君のことがよく見えない。だから大事なんだよ。……じゃあ、これから迎えに行くから、君もメガネも一緒に帰ろう』
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