絡まって、解けて。

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「……ニイッちゃん」 「ん? 何?」 「せめてダウン脱いで。部屋があったかいだけに、それ着てるの見てると暑苦しい」  そう言うとニイッちゃんは視線を下ろして自分の恰好をまずは見て、まもなくもぞもぞと、ノロい動作でダウンを脱ぎ始める。 「そう言えばさ、もしかして一華姉来てる?」  ニイッちゃんがそう訊いてきたのは、ダウンの袖から腕を抜いていたとき。 「うん、来てる。いつもの家出。よくわかったね」 「玄関にもここにも一華姉のっぽい匂いがするからそうかなって。で、一華姉は? 帰った?」 「ううん、いまは買い物行ってる。お母さん、急に仕事になったみたいで、代わりに夕飯作ってくれるって」 「へえ、一華姉が」 「楽しみだよね。お母さんよりお姉ちゃんの方が、はっきり言って料理うまいし。でも今日はちょっと心配かも」 「心配ってどうして?」 「お姉ちゃん、出かける前にこう言ってたんだ。あいつのメガネを煮込んでやるって」  ニイッちゃんのダウンを脱ぐ動作がぴたりと止まった。 「……あいつって、もしかして悠二さん?」 「だろうね」 「何があった?」 「詳しくはわかんないけど、どうもこういうことみたい」  私が帰ってくる前、お姉ちゃんは夫の悠二さんと電話をしていて、悠二さんにこれから迎えに行くと言われたらしい。  ところが、その電話からまもなくふたたび悠二さんから電話が来て(ちょうどそのとき私は帰ってきた。)、その電話で迎えに行くのが夕方過ぎになると言われたようだ。  それでお姉ちゃんはチョーご立腹。  で、そのあとお昼ご飯を作ってくれたのはいいけれど、その間も食べてるときもぷんぷんで、買い物に行くときは、あいつのメガネ煮込んだる! って叫んでから出かけていった。  そのことをニイッちゃんに話すと、ニイッちゃんは、ははっと今度は引き攣り笑い。  うん、その気持ちよくわかる。  ちなみに、私が自分の部屋ではなくリビングにいるのは、お姉ちゃんのメガネを煮込むなんて暴挙を止めるためである。  だってそんなことしたら、被害にあうのはメガネや悠二さんだけじゃない。お姉ちゃんの料理を食べる家族全員が被害にあう。  だから阻止しないと。 「あ、何か落ちたよ」  ダウン脱ぎを再開したニイッちゃんから何かがぽろり。  見れば、それは黒のメガネケース。
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