絡まって、解けて。

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「これ、サトちゃんの」  そう言ってケースを拾い上げ、ニイッちゃんを見ると、目が合う。  けれどすぐに目を逸らされる。その顔は気まずそうだ。  ……あーあ、どうしてそういう風にしちゃうのかなあ。  そうだよ、形見に貰ってきたんだ――とでも言ってくれれば、そうなんだって言って渡せるのに。  でもそんな風にされたら、こっちから何か言わないと返せないじゃない。 「……遅すぎ、ニイッちゃん」 「え?」 「これ、ニイッちゃんのためのメガネなんだから、もっと早く持って来てあげないといけなかったんだよ」 「何言ってるんだ。それはオレのじゃなくてテツの――」 「そんなのわかってるよ。だから、サトちゃんのって言ったじゃない。そうじゃなくて、ニイッちゃんの、た、め、の、メガネだって言ったの。サトちゃん、ニイッちゃんに会うときだけは絶対このメガネかけてたんだから。だから、はい」  押し付けるようにニイッちゃんにケースを渡す。  ニイッちゃんはそのケースを一旦見たあと、私に視線を戻してくる。  さっき気まずそうだったその顔は、いまは驚いてるって感じ。  こりゃまだ飲み込めてないか。……まあ、それも仕方ないか。 「つまりさ、私やお姉ちゃん、おじさんやおばさんにだって絶対じゃなかったの。ニイッちゃん以外のときは、サトちゃん、絶対メガネをかけてたわけじゃないんだよ」  そう説明しても、ニイッちゃんは飲み込めてないって顔を変えない。  困ったお兄ちゃんだ。  説明しているこっちは胸が痛いってのに。それ我慢して言ってあげてるのに。それなのにこれ以上言わせるの?  仕方がないなあ。  そう諦めて、また口を開こうとしたとき、さっきニイッちゃんが開けて入ってきたドアが急に開いた。 「たっだいまぁ、って、あら? 弐壱、帰ってたの?」  と、お姉ちゃん登場。  そしてお姉ちゃんは、いっぱいに食材が入ったエコバッグをドア近くに置いてこちらに近づいてきて、ニイッちゃんの顔をじろじろと見たあと、突然両手でニイッちゃんの頬を挟み、そのあと間髪置かずぐいっとニイッちゃんの顔を引き上げるように自分の顔に近づけた。  いまのは、ニイッちゃん、首やっちゃったんじゃないかな?  間近で顔を合わせる姉と兄を前に、私はそんなことを考えていた。
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