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「弐壱、ちょっと一緒に来なさい。あ、三和、買ってきたもの冷蔵庫に入れといて」
しばしニイッちゃんの顔をじろじろと見たあと、お姉ちゃんはそう言って、ニイッちゃんに有無を言わせる間を与えずに、ニイッちゃんの手を引いてリビングから退場。
その2人の後ろ姿が見えなくなると、私はよいしょとソファを降り、お姉ちゃんの指示に従うため、2人が消えたドアの方へ向かった。
そしてドアの前に置かれたエコバッグに手を伸ばし、そうしたとき思いだした。
前触れもなく唐突に思いだしたそれは、サトちゃんとの最後のやり取り。
*
「好きだよ、サトちゃん」
それは病室――入退院を繰り返してたサトちゃんにとって最後の病室でのことだった。
ベッドの上で上半身を起こすサトちゃんと私以外病室にはだれもいなかった。
告白した私をじっと見てくるサトちゃんの顔にはメガネはなかった。
でもそれは当然。
サトちゃんはメガネを部屋に置いてきたから、その顔にメガネがあるはずがない。
サトちゃんがメガネを置いてきたのはわざとだ。
この告白の数日前となる入院した翌日にも私は病室を訪れており、そのときメガネがないことに気づいて、「取ってくる?」って訊いたら、サトちゃんは顔を横に振って「いいよ」と答えた。
それがなぜなのか、私にはその理由は何となくわかっていたけれど、それを口には出して確認することはなかった。
「言わないで終わっちゃうのは嫌だったから言っておこうと思ったの。でも、知ってたよね? サトちゃんはきっと」
見てくるだけで口を開ける気配のないサトちゃんに焦れてそう言えば、やや間をあけてからこくりと頷いた。
「やっぱりね。私、友だちにも、お姉ちゃんやニイッちゃんにさえ掴みにくいって言われることがあるけど、サトちゃんはいつもちゃあんと私の気持ちをわかってくれたから、だからきっと、わかってると思ってた。……一応、返事くれる。そうじゃないと告白した意味ないから」
「……ごめん」
「了解。……じゃあ、帰るね」
その言葉どおり、帰ろうとした。
だって振られたんだから。
振った人の前に長居は無用。
そんなことしたら、振った人間振られた人間双方の心に悪い。
でも、帰るために踵を返そうとした瞬間、思ったことがあって、そのために私は結局その場に留まった。
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