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「サトちゃんは言わないの?」
その場に留まった私は、サトちゃんにそう尋ねた。
「何を? だれに?」
「ニイッちゃんに好きだって」
そう言うと、サトちゃんは視線を私から外した。
けれどまもなくその視線は戻り、そうしてサトちゃんは言ってくる。
「知ってたんだ」
「そりゃ知ってるよ。何年、ニイッちゃんとサトちゃんと一緒にいたと思ってるの? たぶんお姉ちゃんだって知ってる。一緒にいたのに気づかないのは、ニイッちゃん本人だけじゃない? ……もう一度訊くけど、言わないの?」
「……」
「わかってるんでしょ? 相思相愛だって」
「……」
「これで3度目。言わないの?」
「……迷ってる」
「……だから、メガネを置いてきたの?」
「メガネ?」
「あれ? 違った? ニイッちゃんの顔がちゃんと見えたら、好きだって言っちゃいそうになるから、だからメガネを置いてきたんだと思ってた」
「それは、……まったくの見当違いだとは言わないけど、理由の主ではないかな」
「じゃあどうして置いてきたの?」
「……俺が苦しむとニイチも苦しそうな顔するから、その顔が見たくなかったんだ」
「……でもそれじゃあさ、ニイッちゃんの普段の顔もよく見えないでしょう」
「確かに。でも、その顔が見れたら見れたで、三和がさっき言ってたみたいに、その顔には好きだって言いたくなる気がするから」
「言っちゃえばいいのに」
「そう簡単には言えないって。もう俺、死ぬんだから」
「だからこそ言うべき、とまで言ったら、さすがに押し付け過ぎだよね」
「そうだね。そこまで言われたら、出ていけ! って叫ぶかも」
だよね。優しいサトちゃんでもさすがに『べき』まで付けたら怒るよね。
だからそこまでは言わず、長年の付き合いの経験から、サトちゃんに怒られないぎりぎりの線を探してこのとき話していた。
「もしも、もしもさ、メガネが欲しくなったら連絡ちょうだい。私、持って来てあげるから。……どうしたの? 急に笑って。私、変なこと言った?」
「うん、だって三和、さっき俺に告白したばかりじゃない。なのにそんな、敵に塩を送るみたいなこと言うから」
「それは、……まあね、振られたからってサトちゃんを好きじゃなくなるってわけじゃないから、だから確かに私が言ってるのはそういうことになるんだろうけど」
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