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「その2人だけ足を止めた? それで歩くみんなから外れちゃったのかな?」
「そう。そういうこと。それでね、みんなは気づかなかったけど、私はその2人が消えたことに気づいて、振り返って2人を見つけたの。そしたら、マネージャーってメガネかけてるんだけど、レンズと蔓のところに、その子の髪が絡まってたの。で、その髪を男子部のキャプテンの解いてあげてた」
そのとき、心の中で何かが動いた。
それは、サトちゃんが止まっていたものだと気づいた。
サトちゃんが死んで9か月。その間、私はそのことに気づかなかったんだ。
「それで? 解いてあげて、どうしたの?」
「何だかいいなって思った。私も髪伸ばして、メガネかけて、それでメガネに髪を絡ませたらだれか解いてくれないかなって、そう思った」
「……本当にそれだけ?」
「うん、それだけ。……おかしかった?」
「そんなことはないけど、三和ちゃんがその男子部のキャプテンが好きなのかなって、そういう話なのかと思ったから」
「あー、それはない」
そう言いながら、男子部のキャプテン大田慎吾(おおたしんご)の顔を思いだす。
悪くはない。と言うか、むしろいい。でも、サトちゃんには負ける。
「どうしたの? 急に笑って?」
悠二さんにそう言われて初めて、笑みを浮かべる自分に気づいた。
「いや、完全に解けてないなあと思って。って、わからないよね、こんなこと言っても。はいでは、私の話は終わりです。ちなみに、いまの話は悠二さんのメガネを見て思いだした話なだけだから気にしないでね。さてじゃあ、お姉ちゃん呼んでくるから」
「え? いいの? いま弐壱くんと話してるんじゃあ――」
「大丈夫大丈夫。上行って結構時間経ってるから、話の主は終わってるはず。そしたらあとは私が引き継げると思うから、だから呼んでくるよ。わが家の夕食の安泰のためにも、うん、そうしましょう」
そう言って、くるりと振り返る。
そうする瞬間、悠二さんが首を捻るのが見えたけれど、たぶん『安泰』が何かを思ったんだろう。
まあそれはお姉ちゃんに直接聞いてよ。
そう思いながら正面に見える階段に向かって踏みだし、どうかニイッちゃんの心にも動きだすものがありますようにと、2歩目を踏むときはそう願っていた。
―完―
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