レンズの向こう側

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 その秋からオレとテツはこれまでのことを覆し、放課後、遊ぶとしたらそれはオレの家ではなく、テツの家になった。  放課後、テツの家を訪ねれば、テツの母親――おばさんが出迎えてくれた。  以前は、テツの父親であるおじさんも、それからおばさんも、普通日は午後7時前にいることがめったになかった。  おじさんについてはそれは変わらなかったけれど、おばさんは7時前と言わず、オレが頻繁に訪れるようになったのと同じ頃から、毎日1日中家にいるようになった。  それはつまり仕事を辞めたからで、その理由はテツのためだった。  もとはふくよかだったおばさんは、家にいるようになってから少しずつ痩せていった。  それがダイエットをしてのことだったら、「また痩せたんじゃない?」と訪ねたときの挨拶代わりに言うこともできた。  だけど、痩せた理由はそうではなく、その理由には触れない方がいいと思ったから、だからオレは玄関に出てきてくれたおばさんに「邪魔するね」とだけ言って、そのままテツの部屋がある2階へと向かった。 「階段を上がる足音でわかるよ」  そう言われたのは、訪ねるようになってから何度目のことだったろう。  そのとき、こうも言われた。 「だから別に、声をかけなくてもいいのに」  それに対して、オレはこう返した。 「でも、親しき仲にも礼儀ありって言うだろう?」  だからオレは、テツの部屋の前まで来たら言うんだ。 「テツ、来たぞ」  そう言ってドアを開ける。  するとテツは笑顔で迎えてくれる。  その笑顔にオレは近づいていく。  そしてベッドの脇で足を止める。  そこまで来たときのお決まりで、テツから一旦視線を外し、ベッドの枕元を見る。  そこには必ず数冊の本があった。  それは大体ハードカバーの分厚いやつで、たまに文庫本もあるけれど、その本にしたって分厚いことは変わらない。  テツの名前を漢字で書けば『哲』。  テツ曰く、賢い人になって欲しいという願いからその名前。  その名前に恥じず、テツは昔から小難しい本が好きで、でもテツが読書に没頭していればオレはその邪魔する。  だってテツが読書をしていたら遊べないし。  それに、……本にテツを取られたみたいで嫌だったから。  その思いはいまもある。  昔と質は変わったけれど。  だけど――。
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