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枕元にある本からテツの膝の上で開かれていた本を経由してテツの顔に視線を戻す。
その顔には、相変わらずメガネ。
ただし、以前は斜め上にあったはずのそれが、このときは斜め下に見える。
それはテツがベッドの上で上半身を起こしている態勢で、そのテツをオレの方は立って見ているから。
昔に戻ったようなその目線の高さ。
でも、テツの目を見ることは、昔のようにはできなかった。
それでもどうにか努力してテツの目を見つつ、こういうときのお決まりのセリフを言う。
「それ、イイとこまで読んだら声かけて」
するとテツの方も決まって、レンズの向こうに見える目を細めて微笑み、言うんだ。
「ちょうどイイとこ。今日は何する?」
ホントかよ。
そう思う反面、嬉しい。
こういう場合、閉じられた本を見て、お前に勝ったぞ! と思うのは昔のオレ。
対して、いまのオレはただただ嬉しい。
だけどその嬉しさをテツに悟られたくなくて、テツから目を逸らす。
すると偶(たま)に――いつもではなくこれは偶のことだけれど、目を逸らしたことをごまかすために体の向きも変えようとするオレの手を、いつのまにか伸びてきたテツの手が取る。
その不意打ちに体の動きが止まる。
そして目は思わずテツの目を見てしまう。
そのときのテツの目は、少し前に見た目とはまったく違う。
どう違うかって言うと、それはうまく言えないけれど、確かに違う。
絶対的に言えるのは、そのテツの目を見た瞬間、心臓が止まりそうになるってこと。
けれどそれは瞬く間と言えるほど短い間の感覚。
その感覚が終われば反転、心臓はバクバクと言い始める。
視覚ではテツの目を、触覚ではテツの手を捉えていることを、いや、捕らえられていることを意識して、途端そうなる。
「……何だよ」
自分からは捕らえられたところから抜けだせないオレができるのは、せいぜいそう言うくらいで、心臓の音が口から飛び出てくるんじゃないかと恐れつつ言ったそのひと言でテツは手を離し、目はもとのように細めて微笑み、「いや何でもない」と。
その言葉に、だったらやめろよそういう心臓に悪いことと、それは心で思い、口では「そうかよ」と。
そう言う場合は、いい。
そうではなく、つい別のことを言ってしまう場合があり、それは最悪。
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