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出会ったのは合コンの席。
そいつは父親も兄も弁護士の、将来が約束された駆けだしのイケメン弁護士で、同席の女5人中4人に狙われていた。
ところがそいつは、なぜかその他の1人だったあたしを気に入って、付き合うこと2年、結婚して半年というのがあたしとそいつの現状。
その現状に至ったこの頃、夫になったそいつについてふと考えることがある。
何か最近あたしの扱い悪くなってない? って。
だって恋人の頃はもうちょっと、いや他人から見たら変わってないって思うかもしれないけど、本人的にはもうちょっと待遇が良かった気がする。
対して、何なのよ、その好待遇!
どうしてアレの待遇だけは変えないのよ!
アレの扱いはいつも慎重で、そのうえ目を細めて、愛しそうに見やがって!
そんな風に最近あたしのこと見た!?
アレのことは毎日愛しそうに見ているくせに、あたしのことはいつよいつ!
と、今朝はとうとう朝帰りの夫に堪忍袋の緒が切れ、あたしはアレを攫い、実家に帰りましたとさ。
*
「私が帰ってくるまでには帰りなさいよ」
「……もし帰ってなかったら?」
「追いだす」
きっぱりとそう宣(のたま)ってくれたのは実家の母上さま。
10年前に亡くなった父上の分まで働き、兄弟3人をその細腕、いや剛腕で育ててくれた母上さまは、今日は本当は休みだったのに、勤務予定だった後輩の看護師が急に休みになったとかで、いまは出かけるための支度中。
そんなバタバタな母上さまを、あたしはリビングのソファに座って観察中。
「それにしてもホント、これっきりになさいよ。ひと月に一度のペースで突然実家に帰るなんて、そろそろ離婚を言い渡されるわよ」
「それならそれでいいもん」
「また心にもないことを」
「なくない! しっかりある!」
「あっそ。でもね、アンタがいいって言ってもこっちは良くないからね。ダメ男とばぁっか付き合ってきたアンタが、将来有望な弁護士センセと結婚したことは、私にとっても死んだお父さんにとっても究極の安心ごと。だからそう簡単に別れてもらっちゃ困ります。もし悠二(ゆうじ)さんが、今回の家出について土下座して謝れって言ってきたら、アンタがいっくら嫌がっても私がそうさせる。それくらいの心づもりはあるからね」
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