5人が本棚に入れています
本棚に追加
/282ページ
鉄板の上で何かを焼いていたのだろう。
熱された鉄板の上には、カードサイズのパイ生地がいくつか、香ばしいきつね色になっている。
「ちっ、俺が鋼の剣ごときに負けるとは……」
そうぶつぶつと呟いているシダーの元へ歩み寄ると、チェルシーは、手にしたそのパイ生地を、シダーの目の前に差し出した。
突如漂ってきた甘い香りに、シダーはハッと顔をあげる。
「リンゴ好きなんだってね、リュードから聞いたよ。これ、食べてみて。私の得意料理なんだ!」
チェルシーから出来たてのアップルパイを受けとる。
「有り合わせの材料だから、味の保証はできないけど」
「お前が……これを?」
「うん!」
シダーは何度かチェルシーと、手元のアップルパイを見比べ。
……が、シダーはそれを食べずに、再びチェルシーを見上げた。
「リュードに……何を聞いた?」
何故か額に脂汗をかいているが、チェルシーは全く気付いていない。
「え?だから、シダーがリンゴ好きだって……」
「“俺が”、だな?!」
「……うん、……?」
「“シダー・スプルース”が、だな?!」
「う、うん。どうしたの?」
「なら良かろう!」
安心したように言うと、シダーは湯気のたっているアップルパイをサクリとかじった。
そのまましばらく無言で、もぐもぐと口を動かした後、
「……うむ、まあまあだ!」
普段よりテンション高く言い、シダーは眼鏡を光らせた。
「……相変わらず、これだけは旨いな」
「え?シダーに作ったの初めてだよね……?」
シダーの呟きに、チェルシーは首を傾げる。
「ち、ちがう!アップルパイという料理そのものが旨い、という意味だッ!」
シダーは慌てて否定すると、残りのアップルパイを口の中に押し込んだ。そのままの状態で、シダーはもそもそとリーガルに喋り掛ける。
「そんなふぉほよりも、ひっふぉふの。ひふぁまの得物がそんななりでは、俺のふふぁいどが許さん。どこぞでそのデカブツを直すふぉほはできんのか?!」
「…………はぁ……?」
最初のコメントを投稿しよう!