第1章

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朝、目覚まし時計が鳴り響く 眠たい目をうっすらあけて、慣れた手つきで止める。布団の中で1度大きく伸びをする いつも通りに。そう。いつも通りに。 部屋の向こうから声が聞こえる どうやら叔母がご飯だと呼びに来てくれたらしい これもまたいつも通りに 僕に両親はいない 学生の僕は母の妹の家にお世話になっているただの居候だ 5年という期間限定の居候 その次はどこの家かなんて知りもしない、知りたくもない そんなわけで、僕の部屋には誰も入らない 正確には僕が借りている部屋には いつも通りに立ち上がり扉に向かう いつも通りにドアのぶに手を伸ばす しかし、いつも通りでないものが視界に入った 「手紙。。?」 扉の前に置かれた一通の真っ白な手紙 真っ白なのに真っ白に感じない手紙 ドアのぶに向けた手はいつも通りでない手紙を拾う 真っ白な手紙、裏を見れば真っ白でない手紙 「42歳の僕より」 知っている 僕はこの文字を誰よりも知っている なぜならそれは紛れもなく僕の字だ しかし、知っているのに知らない 何故なら書いた記憶がないから 手紙を開けようとするのを拒むように、邪魔をするように叔母の声が再び僕を呼ぶ 仕方なく手紙を机の引き出しにいれた 僕以外の誰かが入らない部屋で何故か隠した いつも通りにご飯を済ませ、学校に行き、いつも通りに帰宅する そして、いつも通りに机に座り、何度も繰り返し読んだはずの本をいつも通りに読む いつも通りに しかしいつも通りでなかった出来事を思い出す そう、あの真っ白な手紙 知っているのに知らない手紙 引き出しにはいつも通りでない手紙がたしかにあった 間違いなくあった 少しの間それを眺める 手紙を開けようと指を動かすがた拒むように邪魔をするように叔母の声が聞こえる 手紙を咄嗟に本の間に挟んだ 何気なく、隠すように 叔母から渡されたのは真新しい本 僕が好きそうな本 あぁ、誕生日か と思いだし笑顔で受けとる そして部屋に戻り読み始める 手紙を忘れて それから時は過ぎ僕は42になった 仕事は休みで、本を読もうと手に取れば何かが落ちた 真っ白な手紙 あの日を思い出す 結局中身はわからなかった手紙 今もわからないままの手紙 だから僕はそれを再びあの日の僕へと届けることにした 読むべきは僕でなくあの日の僕だから
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