~1998~

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_________ あの町を離れ、いつもの小屋に帰ってきた。 思いがけない荷物を持って。 クローゼットで見つけた紙袋には、やっぱり金塊が入ってた。 それは想定内だったが、想定外だったのがタオルケットに包まれた赤ん坊。 なぜか殺すことができなくて、でも顔と姿を見られたからには生かしておく訳にもいかず、俺は赤ん坊を持って帰ってきてしまった。 赤ん坊は出会った時は散々泣いていたが、今はすやすやと寝息をたてて眠っている。 なぜ、あの場で殺さなかったのか。 なぜ、あの場で殺せなかったのか。 わからない。 今まで思うがまま自由に生きてきた俺には、自分自身がとっている今のこの行動が全くわからなかった。 今だって殺そうと思えば簡単に殺せる。 まして相手は抵抗することもできないし、眠っているのだ。 いつも通り振りかざしたナイフを、心臓にめがけて振り下ろすだけ。 それだけだ。 ナイフを手に取り、再び赤ん坊めがけて高く振り落とす。 が、ナイフはただただ空を切り裂くだけだった。
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