~1998~

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ナイフを振りかざそうとする度に、あの時俺に向けられた笑顔を思い出してしまう。 計算だとか、欲だとか、そんなものが全く含まれていない、純粋な笑顔。 初めて俺に向けられた、優しい笑顔。 その顔が何度も何度も頭をよぎり、俺はとうとう赤ん坊を殺すことを諦めた。 初めて何かを諦める、ということを体験したが、なぜだか身体が軽くなったような気がした。 一睡もせずにいたようだ。いつの間にか朝日が昇っていた。 明るくなった部屋で、またまじまじと赤ん坊を覗き込む。 さらさらとした柔らかそうな茶色の髪の毛、ふさふさの黒いまつげ。ピンク色の唇、小さな小さな鼻、ふっくらとした頬。 思わず、そっと人差し指で頬をつついてみる。 起こさないように、泣かれないように、そっと。 触れた指からは温もりが伝わってきて、俺の冷たかった指先を優しく包んでくれた。
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