釣り人

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釣り人

 家の近くに川がある。  大きな橋には両側に広い歩道が設けられていて、しょっちゅう釣り人が竿を垂らしている光景が見られた。  以前は興味がなかったけれど、一ヶ月ばかり前に、友達のお父さんに海釣りに連れて行ってもらってから、とても釣りが好きになった。  まだ道具も何も持っていないので、自力で釣りには行けないけれど、釣り人がいると気になって、時間のある時はその様子を眺めるようになった。  今日も、学校帰りに足を止め、釣りをしている人達を見ていた。  橋のこっち側歩道に二人、反対側の歩道に三人。みんな年配の男の人で、それぞれに糸を垂らしている。  でもその中の一人だけが、やたらと魚の釣れ具合がよかった。  見た目的には一番年上のようだから、やはり年季の差とかなんだろうか。  とにもかくにも、周りが一匹釣る間に、たちまち四、五匹釣り上げる腕前は見事で、気づいたら、俺はそのおじいさんに話しかけていた。 「さっきから見てたんですけど、物凄く釣り上手なんですね」  見知らぬ小僧にいきなり話しかけられたせいか、おじいさんはぽかんとした顔で俺を見た。でも、言葉が腕前を褒める内容だったせいか、すぐに嬉しそうに笑ってくれた。 「なんだ、坊主も釣りが好きなのか?」 「はい。好きになったのは最近ですけど」  そこらかは、まるで以前からの知り合いのように会話が弾んだ。  おじいさんは子供の頃からの釣り好きで、釣り人歴はもう六十年以上らしい。  だから魚のいるポイントとが判るのかと、ひたすら感心する俺に、おじさいんは急に声を潜めてこう言ってきた。 「実はな、俺が人より釣れるのは、年季以外にもう一つ理由があるんだ」 「? それ、何ですか?」 「実はな…俺には幽霊が見えるんだよ」  意外すぎる発言に、何も帰せず固まっていると、おじいさんはつらつらと続きを語った。  何でも子供の頃から霊感が強く、日常的に幽霊が見えるらしい。それと釣りがどう関係するのかというと、おじいさんには、事故だったり自殺だったり…ともかくどんな形でも、この川のこの橋から落ちて亡くなった人の霊が見えているのだという。そして、どういう理由か、霊が見えるポイントには魚が集まって来るので、人よりたくさん釣れるらしい。
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