11人が本棚に入れています
本棚に追加
呂律の回らない原田の言葉を一つ一つ問いただしてはいけない、『あらられて』はおそらく現れてだろうと高雄は判断してそのまま先を聞いた。
「それでぇ……俺に足らないのは情熱だって言うんすよ…」
こくりと頭を下げた原田がこのまま寝ないように、高雄は先を促した。
「それでどうしたんだい?」
「らからね……情熱の赤い虫をくれるって言った……んすよ。気色悪い虫で……でもなんだか断れなくて……」
そのまま、原田は眠りに落ちてしまった。
高雄は重く溜息をついた。
結局、原田の夢の話を聞いただけじゃないか。
聞き慣れない『あのむしや』はその後の言葉で『あの虫屋』と、脳内変換はできた。
『情熱の赤い虫』なる言葉が出たからだ。
然りとて、言葉が分かったからどうなると言うのか。
他人の夢の話を聞いてもどうにもならない。
しかも夢とは言え、もう少しまともな夢を見られないのだろうか。
情熱の赤い虫なんて馬鹿馬鹿しすぎる。
無駄な時間を使って、金を使う事になる。
目の前ですやすや眠る原田を忌々しく思い睨みつけた高雄は、睨んだ所で無意味だと気付き、目を閉じた。
するとその時、今までよりも店内が明るくなったらしく、閉じた瞼の裏に光を感じた。
最初のコメントを投稿しよう!