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高雄は己を笑った。
そうだ、これは夢でしかない。
何が現実だ、あり得るはずがない。
高雄が最も真面な判断をした瞬間、店主が口を開いた。
「夢と思うか現と思うかはお客様次第にございます。ですが、今は私はこうしてお客様の前におります。私は変わりたい者の前に現れる者、お客様はどう変わられたいとお思いでございましょうか?」
店主の言葉に高雄は驚愕した。
「俺の心が読めるのか?」
すると店主は目を細め、ふっと細く息を吐くように笑った。
「お客様の夢であれば、何ら不思議なことではありませんとも」
高雄は顔や脇に嫌な汗をかいている自分を自覚した。
手の平もじっとりしている。
夢でこんな汗をかくものなのか、それでも夢と思わずには対処しきれなくなる自分がいるから、高雄はこれは夢なのだと思うことにした。
思えば夢も自分の深層心理を知る手掛かりとなると言うではないか。
高雄はそれなら向き合おうと、店主に尋ねた。
「店主よ、俺はどう変わりたいと思っているとお前は思うんだ?」
「お客様は昔の情熱を取り戻したいと願っておられる。けれどなくした物は取り戻せない」
「どうしたらいいんだ?」
高雄の問い掛けに数秒、店主は黙した。
その答えの行く末を知る店主の躊躇いがあった。
けれどそれはほんの僅かな気の迷い。
高雄には非はないけれど、それでも貴重な機会を店主は逃せなかったのだ。
「取り戻せないのなら、新たに取り入れればよろしいのです」
店主はにっこりと笑みを見せた。
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