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高雄は眉をひそめた。
「情熱と冷静と完璧?完璧だけ意味合いが違うように思うが、どうしてだ?」
「私は意味合いが違うとも思いませんが、どうでしょうか?情熱ある自分でありたい、冷静な自分でありたい、完璧な自分でありたい……私は変わりたいと望む人間の前に現れる者ですから、どの虫もおかしいとは思いません」
高雄は店主の言葉を聞いても納得いかなかった。
完璧があるのなら、情熱や冷静は必要ないではないか。
「じゃあ完璧の虫が欲しい」
「おや、お客様が望むのは情熱ではなかったのでしょうか?」
「確かに…確かに俺が取り戻したかったのは情熱だ。しかし完璧な人間になれると言うのであればその方が良いに決まってる。そう、俺でなくとも誰もがそう思うはずだ」
店主はまたにっこりと笑みを見せた。
「さようでございますか?それでは紫の虫代金、一億円御用意下さいませ」
「一億だと?」
とんだ話だと高雄は素っ頓狂な声を上げた。
「こんな小さな虫如きに一億なんてあり得ないよ」
「確かに大きさは小さい物ですが、効果は絶大ですし、中々手に入れられる物ではありませんので……」
店主の言葉を聞いて、高雄は自分で探せばいいと気付いた。
「ご自分で探そうとしても、それは叶わない話です。紫の虫は探しても見つかるものではありませんので」
また心でも読まれているようなタイミングで店主が言った。
「探しても見つからないのは紫の虫と言ったな?ならば赤い虫は探せばあるんだな」
「何を不思議な事を仰るのですか?目の前にこんな沢山いるではないですか」
「そんな一億なんて大金払えるか」
すると店主はコロコロと笑った。
「代金を頂戴しているのは紫の虫のみでございます。赤い虫も青い虫も必要な方に渡しております」
「本当に?」
「はい」
「受け取ったら実は代金がなんてなるんじゃないのか?」
「その様なことは申しません」
「それなら……」
「赤い虫を御用意しますね」
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