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美恵子が目を開けると、その変わりように恐れ戦いた。
自分のアパートにいたはずなのに、今美恵子がいるのは3畳程の汚れた建物だった。
事態を把握出来ずにいる中で柔らかな声が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
「誰?」
危険だと感じる思いと縋りたいとの思いが入り混じり、震える足で少しだけ後退りしながら美恵子は聞いた。
「私は幻虫屋の店主でございます。ここはお客様の願いを叶える場所。何も怖くはございません。どうぞご安心下さいませ」
見透かされている事に驚きは隠せなかったが、店主の優しい声音を美恵子は信じた。
「願いを叶えるって、例えばどんな願いを叶えてくれるの?」
「それは先程お客様が考えていらっしゃった事。ご主人の性格を変えられる物がございます」
常識では有り得ない空間や、突然現れた店主への訝しさよりも店主の言葉の意味は今の美恵子にとって最優先事項であったので、目の前の不思議を問いただすよりも先に進める事を美恵子は選んだ。
いや、最優先事項しか考えられなくなっているだけかもしれない。
美恵子にはそんな単純さがあった。
「それを下さいな。どうしたらいいの?」
「ご婦人には気味の悪い物かもしれませんが、効果は絶対的な物でございますので、そこは目を瞑って頂きたく思います」
効果は絶対と聞き、美恵子は聞き急いだ。
「分かったわ。早く出して下さいな」
美恵子の言葉を分かっていたとばかりに店主は1つの瓶を照らした。
そこには青い虫がテラテラと蠢いていた。
店主はこの青い虫を寝ている高雄の口に放り込めば、美恵子の願いは叶うと言った。
そして美恵子はその言葉通りにしたのであった。
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