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店主は新たに誕生した紫の虫を仲間がいる瓶の中へ入れた。
「お客様、紫の虫だけ高額な理由が分かりましたか?」
店主のその言葉は最早抜け殻となった高雄に向けられてはおらず、瓶の中へと語りかけていた。
返答がないのは百も承知、店主はそれでも語りかける。
「貴方達はこれから幾つもの虫を産むのですが、それは赤と青の虫しか産まれない。紫の虫は何故か赤と青の虫両方を取り入れ、無料で完璧になろうとする卑しい人間からしか産まれないのです。ああ、貴方の場合は先に奥様が青い虫を飲ませたからで、事情が違いましたね。ともかくどんな人間であろうとも、そこは人の命と引き替えに産まれる貴方達に大きな価値をつけるのはせめてもの餞。それにしては一億は安すぎますか?けれども誰もが手に入れられない様な金額では、私の生業としての意味がない。私は幻虫屋としてこれからもここにいなければなりませんから」
店主はそう語ると瓶の蓋をした。
次なる客の前に現れるために。
完
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