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そんな訳で夫婦となった2人である。
互いが互いにこの人しかいないと思って仲むつまじく過ごしてきた。
が、高雄のそれは高雄の恋心そのものであるから遜色なく時は過ぎるが、美恵子のそれは意図してではないが環境によって作られた感情である。
元々高雄自身を好ましいと思ったからではないので、生活を共にするうちに嫌な所が目につくようになった。
惚れた腫れたの相思相愛で結ばれた夫婦であっても交際と生活は違うものであるから、徐々に気持が冷めてゆく。
それが美恵子の場合は勘違いに縋った結果なので冷静さを取り戻せば急速に冷めてしまうのも当たり前だった。
均衡が崩れた夫婦関係は恐ろしいまでに滑稽で、滑稽であるが故に恐怖の様となる。
一般論で、女性の方がこういった事への気付きは鋭いと言われているが、それは男性には全く備わっていないと言う事ではない。
更には高雄はそう言った事の気付きに長けていたので、美恵子の変化にすぐに気付いた。
けれども気付いた高雄の取る行動が、更なる美恵子への熱い想いをぶつける事と浮気を心配しての時間や行動の拘束であったために、美恵子の気持ちは冷めるに留まらず嫌悪とまでになってしまった。
子供はいない、年齢だって若い、やり直しはいくらでも可能だ。
けれども高雄の通帳に振り込まれる平均以上の給与を自由にできる価値は、1度知ってしまったが故に失いがたい。
美恵子は考える。
何年も経つのに激し過ぎる感情そのままにぶつけてくる不様な夫を治す方法を。
そう、あの情熱は最早病気だ。
病気を治すのに何の抵抗があるだろう。
しかし、どうやって?
他人の感情を言いなりに出来る薬なんて、存在しない。
いや、有るかもしれないが美恵子には手に入れる方法がない。
美恵子が思いあぐねて目を閉じ、深い溜息をついた瞬間に閉じた瞼に光を感じた。
その光は目映いものではなく、陰湿な光を帯びたものであったが、目を閉じていた美恵子には判別がつかなかったのである。
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