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それは突然にして起こった。
否、起こったと言う表現は正しくないかもしれない。
目に見えるものではないからだ。
ある日突然にして高雄の中で何かが変わった。
それまでの高雄は何に対しても情熱的であった。
妻である美恵子への感情も仕事への熱意も、全てにおいてうねるような熱い思いがあった。
それが、急に失われてしまった。
考える前に行動を起こしていた高雄が、何にしてもまずどうなのか思い悩むようになった。
これが年相応の冷静さを身に着けたと言う事かとも思ったが、何の前触れもなく変わった自分に高雄は違和感を感じずにはいられなかった。
けれどもそれも最初だけで、すぐに歳を重ねると言う事はこういうものかと、もしかしたら気が付く前からその兆候があったのかもしれないと思うようになった。
日々追うごとに影を薄くする高雄の情熱は全てにおいてやる気をなくし、まるで世捨て人となるまでにそう時間はかからず、そうなってしまった高雄の職場での評価は如実に給与明細に現れた。
美恵子との仲は一旦は取り戻せたかのように思えたが、ふとした時に見せる美恵子の眼差しには高雄を奇異な物を見るような色があり、またそれを何の感慨もなく見返す高雄にももう、修正したいと願う気持ちも失っていた。
差し出された離婚届に書き込み、それを美恵子が役所に提出すると、2人は他人になった。
元より気持ちが離れていた2人にとっては既に他人の感覚しかなかったので、形式が追いついたとの認識であった。
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